「うう、キンチョーしてきた!」
手の平に【人】と空書きし、それを飲み込む振りをする。
顔の表情が緩んだのを見抜かれたのか、に軽く小突かれる。
ついに合唱コンクール当日が来た。
しかも、学年代表として。
数日前に学年別に選考会が行われた。なにしろ氷帝はマンモス校だし、学年だけの発表でもかなりの時間がかかる。各学年の代表クラスだけが全校で発表できる仕組み。
僕達のクラスは、見事1年代表に選ばれた。
「思春期の少年少女の声がとても生きている」・・・とかなんとか総評されてたような。
とりあえず、クラスみんなの努力は報われたわけだ。
「ほら、そろそろステージに整列しないと」
緞帳はまだ閉じていて、けれどその向こうから聞こえてくる生徒たちのざわめき。
僕も楽譜を持ってピアノへ向かう・・・ハズだったのだけど、ステージ横の暗幕で、ひっそりと動かないが気になって、近づく。
クラスのみんなが向かうステージの流れとは逆方向。
「」
「・・・ごめ、学年発表のときは全然平気だったんだけど、足も手もガチガチ」
悔しそうに手のひらを広げて見つめる。
自然に、僕の手はの手のひらに重なる。の手をぎゅっと握って。
同じ目線のと視線を合わせて、極力柔らかく笑った。
「君は大丈夫。僕のピアノの音だけ聞いて。正面の人はサッカーボールだとでも思って」
ぶっ、とが吹き出す。
「サッカーボールの大群か! すごすぎソレ」
「白黒で結構シュールかも?」
の手から力が抜ける。
「サンキュ、鳳」
ぎゅっと両手を握り返されて、その手はするりと離れた。
2006/7/19