氷帝テニス部は部員数が半端な数ではないから、必然的に複数に別れてローテションを組むことになる。
そしてそのローテンションの順番により、本日僕は、ボール拾いの当番。
準レギュの先輩たちが練習しているコートに振り分けられて、その練習風景を横目に見ながら黙々とラケットでボールを拾っていく。
いつか、僕もあの先輩たちのようにコートに立ちたい。毎日そう思う。
特に、跡部さんを筆頭にした2年の先輩達を見ると、その思いはどんどん大きくなっていく。本当にあの人達のプレイは凄いんだ。
7月にある新人戦の選考会で、先輩たちと打ち合うことが出来るのが楽しみでしょうがない。
そんな事を考えていたらあっと言う間に終了時間。榊監督が終了の合図を送ると、皆ぱらぱらとコートから散っていく。
僕は少しだけ居残って、壁打ちをする事にする。
身長が低いせにしたくはないけれど、他の皆よりも体力が劣っているのは確実で、少しでも練習をして体力をつけたかった。
「おい長太郎、あんまり無理するんじゃねぇぞ」
2年の宍戸さんが僕の傍に来て、ぽんと肩を叩いてくれる。
宍戸さんは何かと僕に目をかけてくれて、時々自主練習にも付き合ってくれる、準レギュのとても尊敬する先輩だ。
宍戸さん自身、毎日部活後も残って、閉門時間ギリギリまで練習をしている。
「はい。でも今は練習が凄く楽しいんです」
少しずつだけれど、出来なかった事が出来るようになる喜び。身体を動かす楽しさ。
「そうか。オレもだぜ」
にっと嬉しそうに宍戸さんが笑う。僕も嬉しくて笑い返す。
「おおとりー!!」
と、グラウンドから聞きなれた声。
「威勢のいい声だな」
声の方向に視線を向ける。
「?」
フェンス越しに走ってきたのはやっぱり。
ジャージをまだ着ているって事は、も部活が今終わったところなのかな。
ガシャンと、勢いよくテニスコートとグラウンドをさえぎるフェンスにが張り付く。
ジャージを着たを見ると、どこからどうみても小学生の男子(ゴメン!)にしか見えない。
「今、時間少し平気?」
「あ、うん。何かな?」
フェンスに近づいて、フェンス越しにと向かい合う。
ふふふふふとが怪しげな笑いを漏らす。
「・・・・・・?」
「今朝話し合いした合唱の件でさ。昼休み第二音楽室借りられる事になったから」
「えっ?!」
恐ろしい行動力だ・・・。休み時間と昼休みに走り回ったんだろうか。
「よく榊監督が音楽室の利用許可したな」
驚いた顔で、近づいてきた宍戸さんが話しに加わる。
「・・・テニス部の先輩?」
首をかしげてが宍戸さんを見上げる。
「そうだよ。宍戸さんって言うんだ」
ぺこっと軽くは宍戸さんに礼をする。
「鳳と同じくクラスのです。よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
お互い軽く挨拶を交し合って、「それでさ・・・」と再びが話を再開する。
「クラスのみんなには、1日ずつ交互で昼休み練習していいか明日聞こうと思うんだけど、先に副の鳳に聞こうと思って。鳳は大丈夫?」
ちょっと緊張しながら尋ねてきた。
「うん、もちろん僕は全然構わないよ。明日みんなに聞くの手伝うよ」
うしゃっとはガッツポーズ。
「ありがとね鳳っ♪」
身体全体で喜びを表現するを見て、僕となんとな目が合った宍戸さんは、お互い声を出して笑い合った。
「部活終わったいうんに、にぎやかやな」
「あ、忍足さんお疲れ様です」
の背後から、2年ですでにテニス部レギュラーの忍足さんが近づいてくる。
「よお」
宍戸さんが軽く手をあげる。
忍足さんはもうブレザーに着替え終わっていて、テニスバッグを肩にかけていた。
そしておもむろに、ポンとの頭に手を置く。
「・・・あ」
不意打ちで掠れて声にならなかった。
「で、このチビッ子は鳳のクラスメイトなん?」
何の気なしに忍足さんが聞いてきた。けれどそれよりも。
・・・・それはマズイです、忍足さん・・・っ!
「・・・・っ・・・・チビいうなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
の肘鉄が、それはそれは鮮やかに。ええと、忍足さんのボディに吸い込まれていった・・・。
2006/6/19