最初見たとき、「あ・コイツとは仲良くなれそう」って直観。
 
 鳳はフォロー上手って言うのかな。
 人当たりも良いし、無意識に人に優しいヤツ。
 さりげなく、角も立たずに相手を庇えるし、心配できる。
 無意識に人にやさしく出来る人間って凄いよ。自分はどこか計算入ってるし。
 いつだって【自分が楽しむため】に動いてる。
 
 

 

夢 に 楽 土 求 め た り 1

 

「えーと。クラス最初の校内イベントのお知らせを、不肖ながら学級委員長になったがお知らせしまっーす!」
 1時限取ったクラスの話し合いの場で、黒板の前に立ち、チョークを指先で器用にクルクル回しながらは言った。
「最初の行事は校内合唱コンクール! みんなオレが欲しい商品券の為に、いやいや豪華商品の為に死ぬ気で歌おうぜ!!」
 クラス中から「お前の為かよ」とツッコミが入ったのは言うまでもない。
 
 
--1年G組に僕が入ってから1ヶ月過ぎた。
 このクラスには編入組が結構多かったらしくて、ほとんどの顔ぶれが初対面だった。
 でもそれが返って良かったのか、クラス一人一人が手探りだけれど、和気藹々とクラス全員との交流を楽しんでいる雰囲気がある。基本的にクラス全員が社交的なのかもしれない、恐ろしく前向きなクラスだ。
 
 その中でという少女は、ムードメーカーと言っても良かった。
 小さな身体で、でも誰よりも元気に動き回る。
 あっという間にクラス全員の名前と顔を覚えて、あっという間に全員と友達になってしまった。
 このクラスが当初から和気藹々としていたのも、の影響が大きいかもしれなかった。
 そんな彼女が学級委員に推薦されたのは言うまでもなかった事かもしれない。
 
「先生から何曲か合唱曲をピックアップしてもらったので、そこから歌う曲を多数決で選ぶのでいいかな?」
 そしての隣---教卓の上で発言している僕。なぜかと芋づる式に僕は副委員に選ばれていた。
 最初からと一緒にいたからだろうか?
 
「鳳と一緒なら安心だ〜」
 楽しそうに、嬉しそうにが笑顔を向けてきたものだから、思わず受けてしまった。
 部活が結構ハードだから、クラスに迷惑がかかると悪いから断ろうと思っていたんだけど。
 
「さすが鳳、さくっと話付けて来てくれてサンキュ!」
「たまたまだよ。職員室に用事があって行ったら呼び止められたから」
 はい、とに先生から受け取ったプリントの束とMDを渡す。
「ええと。んじゃ黒板に曲名書くから。順番に曲聴いて、それから決めよ」
 そうは言い、くるりと黒板に目を向け止まった。
「・・・、僕が書くから、議題進行お願いできるかな」
「あ、うん、ありがと鳳」
 
 見上げた黒板は...高いそして遠い。そう、遠いのだ黒板が。
 とてもじゃないが僕との身長では上から書き出すことが出来ない。
 が黒板の前で止まった気持ちが痛いほどよく分かったから(特に彼女は身長の事になると大分神経質になるので)、素早くそう言って、僕はからチョークを受け取った。
 
 さっと教壇の椅子を引っ張り出して、それの上に乗って書く事にする。
....定番と言えば定番かもしれない曲名を書き出していく。
 
「全部で6曲。歌詞はこれから配るプリント見てね〜」
 サクサクと前席のクラスメイト達にプリントをは配り、全員に行き渡ったのを確認してから、教壇の上に用意してあったプレーヤーにMDをセットした。
「んじゃ1曲目再生スタート! ぼちっとな」
 「ぼちっとな」の部分でクラスからどっと笑いが溢れる。でも皆は曲が流れると真面目に聴きだした。
 

 
 
「【流浪の民】か〜。これ歌詞がなんだか難しいよな」
 休み時間、僕の前の席に座ったが歌詞が書かれているプリントを見ながら呟く。
「そうだね。これは歌詞の意味を理解してから歌ったほうが、気持ちが込められるかも知れない」
 
 クラスで歌う事になった曲は【流浪の民】。
 シューマンが作曲した有名な合唱曲。聞いたことだけはあった。
 ソロパートもあって、かなり難易度は高い。ピアノの伴奏者泣かせでもある。
 けれど上手く歌え切れれば、合唱コンクールの入賞も夢じゃないかもしれない。
 
「なんだかんだでみんな入賞狙ってるよな」
「賞品よ待っていておくれ!」とが握りこぶしを作る。
 
「みんなが担当するパート分けと、ソロパートを歌う4人の選考と・・・うーん、確保してある練習時間だけじゃキツイ日程だね・・・」
「だけど放課後はオレ達部活があるじゃん? どうしよっかね〜」
 僕はもちろんテニス部の練習が。は女子サッカー部の練習が(はサッカー好きだった。ぴったりだなぁ)。
 うーんと2人で唸ってしまう。
 答えが出ないまま休み時間は終わってしまって、は唸りながら自分の席に戻っていった。
 

 2へ続く