きっとこれが私の人生最大のピンチに違いないっ。
 廊下を先生に怒られるのも構わず、私は走り抜ける。
 今まで地味だけども、平凡で幸せな生活を送っていた私に天変地異が起きた。

 

真 っ 白 な 彼 女 と 真 っ 黒 な 彼

 

 先日見知らぬテニス部の人に、こ、ここ告白もどきっぽい事をされてしまいました!
 におうまさはると名乗った彼は、私の大好きな蘭の品種、純白仁王みたいに、艶のある魅力的な男の子だった。
 今まで周りにいた男子たちとは全然違う雰囲気を持っていて、かっこいいけど、でも、どこか胡散臭い。妙に擦れたカンジで、同い年になんて全然見えなくて。
 そんな人が、まさか自分に「愛情注いでみんか?」なんて言ってくるとは夢にも思わなくて。きっとふざけてるだけかなと思ってその日は彼の元から逃げ出したけれど。
 
 甘かった。
 仁王君はそれからは、必ず1日1回は私の視界に入るようになった。
 「どうすればいいのかわかんないよぅ」
 私の頭はヒート寸前。やっぱり彼を見ると逃げることしか出来なくて。この心臓のドキドキは一体どうしてしまったんだろう。
 
 
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「仁王君・・・彼女に何したんですか」
 いつでも走って逃げ出す少女を見やり、柳生は呆れたように言葉を紡いだ。
 最近仁王が追いかけている少女の名は、確か『』と言ったか。特に目立った所はない極々普通の、けれどどこか和んでしまう空気を持った少女だった。
 くしゃっと髪に手を埋め、楽しそうに仁王が答える。
「まだ何もしとらんよ」
 耳元で好きだと言っただけじゃ。
 さらりと告げた仁王の言葉に、 
「貴方って人は全く」
 はぁっと、深く柳生は息を吐いた。
「今までの女ならこれでコロっといったんじゃが、には見事に逃げられた」
さんは今まで仁王君がお付き合いしてきた方たちとは違いますよ。貴方だって分かるでしょう?」
「わかっとるよ。自分でも不思議なんじゃ。気が付いたら目で追ってる」
 
ひっそりと咲く、野の花のように。
の存在は自然に仁王の中に入ってきた。
目を向けるようになってみれば、植物の世話を楽しそうにしているも、友人とふざけあっているも、何かあったのか泣きそうなも、全部の表情・行動が愛しくて。
 
 しばらく仁王の表情を見つめて、クスと柳生が笑う。
「そんな表情の仁王雅治ははじめて見ましたよ」
「うっさいわ。青春を謳歌しとるんじゃ、うらやましいじゃろ」
 開き直って柳生に言い返して。
「俺を本気にさせたんじゃし、しっかり責任とってもらうぜよ?」
 
 逃げ出した少女を思い浮かべて、幸せそうに仁王は呟いたのだった。
 
 
 の受難はまだまだ始まったばかり。