乙女心と秋の空
「秋と言えば、食欲の秋!!」
 そう言って、一人砂漠で元気に声を上げる少女が一人。
「やっぱり秋はおいしいものを食べなくちゃね!」
 腕に何か「もぞもぞ」と動く物をしっかりと抱え込んでいる。
 
(四季なんかエディンにあるのかよ〜・・・)
 ここに心の声が一つ。
 いつもだったら間違いなく、少女に大賛成している少年の心の叫びである。
 もちろん、少女にその声は聞こえていないし、その姿さえ認識されていない。なぜか………?
 
 少女の腕の中で、やはり何かが「もぞもぞ」と動く。
「…きゃ。んもう、あんまり暴れちゃ嫌だよ〜……ブタさん?」
 
「…………ブヒッ!!(汗汗)」
 


少年…ミュールはブタになってしまっていたのだ!
 思い返せば、数時間前のミュール…

 
 
−お! あんな所にお宝発見〜!!
 
 キィィ…パカ。
 
−?!!
 
 ボン!!
 
−……ブ、ブブブゥウッ!?(なんじゃこりゃぁぁ!?)
 
−ミュール? どこにに言ったのミュール?
 
−ブ、ブヒー…(ネ、ネーブル…)
 
−…………ブタ、さん?
 
 
 そうして現在に至る。
 必死のアピールで、何とか一緒についてこられた
…というか連れてきてもらった。
 
 
(かっこわりぃぃ〜)
 しかも最悪なことに少女、ネーブルにいまだ気づいてもらえていない。
 どうする、ミュール?! ピンチだミュール!!
 
「本当にミュールはどこに行ったのかなぁ…?
宝物を見つけるとすぐにどこかにいなくなっちゃうんだよ?」
 ずばりミュールの性格を言い当てて、腕の中のブタ(ミュール)に話しかける。
「ブ…ブヒ(う…ごめんな)」
 はぁぁと盛大にネーブルがため息をついて、ブタを抱きしめる。
「ブブッ〜ッ!?(うぎゃぁぁっ)」
 ミュール、ただ今大混乱中。
「いつも一緒にいたいのにな……」
 ぽつりと呟いた、それはネーブルの本音。
 
「さて、と。元気出さなきゃ! 秋って感傷に浸りやすいな〜!!」
 やっぱり季節柄…とかなんとかネーブルは呟いて、握り拳をつくる。
「秋は食欲の秋!!」
 また繰り返す。
 しかし今度は……自分を見る目が怖い…とかミュールは思った。
「ブ、ブヒ〜(ネーブル?」
「豚汁……うん、いいかも……」
「!!!」
 
「きゃ、暴れないで、ブタさんっ!!」
 ブタ…ミュール、大反抗。
 その拍子にネーブルが砂の上に倒れてしまう。
 さらにその拍子に、アイテムを入れてある壺の中から何かが一つ、ブタの口の中に飛び込んだ………。
 
 ボン!!
 
「………も、戻ったぁぁっっ!!!」
 嬉しそうに叫ぶのは、ブタだったミュール。
 
「き、きゃぁぁっ!!」
 叫んだのは、ネーブル。
 
 押し倒すような形で、ミュールがネーブルに覆い被さっていた。
 吐息がかかる、距離。ネーブルの温度が、わかる距離。
「へ? あ!? うわぁぁ!!」
 真っ赤になってミュールがネーブルから体を起こす。
(ブタの時は平気だったのになっっ)
 
 少しの沈黙。照れたように二人とも黙って背中合わせに座り込んでいた。
「あは…ミュール、ブタさんだったんだねっ……」
 顔を赤くしてネーブルが言う。
(と言う事はっ、あたしの呟きを聞いていたって事だよねっぇぇ?!)
「その、まぁ、うん」
(ばっちり聞いてしまったあの呟きの反応はどうすればいいんだぁぁ)
 またさらに沈黙。
 
 
「なぁ、ネーブルっ!!」
 何か一大決心したようにミュールがネーブルに向き直る。
「う、うん、何!!」
 ネーブルもミュールを見つめる。
「その、あーうー…一緒、いような」
 ぼそっと。聞こえるか聞こえないかの声で。
 ぱぁぁっとネーブルに華が咲く。笑顔という名の華が。
「うんっ!!」
 ぎゅっとミュールに抱きつく。
 
 
 ふと、ミュールは思った。
(あのままブタだったらオレ……どうなってたんだろう……)
 ネーブルに聞くのも怖い。
 ちょっぴり背中に冷たい汗が流れるミュールでしたとさ。
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