ふたり一緒なら
エディン、そこは見渡す限り砂漠におおわれた、時の閉鎖された場所。

 
ザクザクッ…
 
サクッ…
 
「出てこない…」
 ぎらぎらと照りつける太陽を見上げ、ネーブルは大きなため息をついた。
 穴を掘り続けて早数時間。目的の物は一向に出てこない。水の量だけがじわじわと減っていく。
 砂の上に座り込むのも熱くて何なので、立てたシャベルに寄りかかってみた。
 
 瞳を閉じる……熱くてどうにかなりそうだよぅ。
 どうしてこんな事になったのかなぁ。
 


 
 
 
 
ザクザク、ザク…
「…………おい、ネーブル………」
 自分を呼ぶ声。ぴくん、としっかり耳が反応する。
「ん? イフ、何?」
 顔を上げると、最近一緒にいてくれるようになったイフの姿。ちょっとキツい眼差しも、必要な時しかしゃべってくれない声も、大好き。
 イフはこの事、知らないだろうけど。
 一人より二人…こんな風に考えるようになった自分。隣に「この人」がいる安心感。イフに出会って、初めてその意味が分かったの。
 
「…お前の穴掘りレベルは今、いくつだ」
 少しイフの顔が怒っているのは気のせいだろうか。
「えーっと。『穴掘り国宝』だって。あたしがもうエディンの宝!?」
 ちょっとふざけて言ってみる。
「……なんだそれは!!」
 あう、青筋立てる……。
「ごめんなさい、冗談です……で、イフのレベルは?」
「……『穴掘り魔人』だ」
 あれ? 最初は…
「イフ、『穴掘り初心者』じゃなかったっけ??」
 あたしの方がレベル上だったハズなのではっ。
「……お前は、会ったときからレベルが変わっていないな」
 イフ、冷ややかに笑ってるよっ〜!!
 
 


***

 
「はっ!! 穴掘らなきゃ……現実逃避してちゃだめだよ自分!!」
 寄りかかったシャベルから身を起こす。
 レベル1だけでも上げないと、イフに睨まれる〜。
 イフに何も言わずに飛び出してきたけど、大丈夫かな…
「せめて何か出てきくれると嬉しいなぁ。自分ではがんばって掘ってるつもりなんだけど……」
 一向にレベルの上がる気配がないですっ。
「リュウジャラシとかネコシラズとか赤い封水石ばっかり出てくるし〜」
 熱くて涙も出てこない。体中の水分が、蒸発しそうな気分。
「掘ろ」
 


 
サクサク。
サクサク。
サクッ、サクッ。
ザクッ。
ガキッ。
 
ザクッ、ガキッ……ってええ!?
 
「何か埋まってるみたい…」
 小さい、何か金属のような。
(でも、今の自分じゃ無理かな……)
 そんな言葉が頭によぎる。でもすぐに、ぶんぶんと頭を強く振る。
「掘ってみなきゃわからないよね! 何事もチャレンジあるのみ!!」
 ぐっと握り拳を作ってみる。
「掘るぞぉっ……」
 シャベルを改めてしっかり握ろうと思った………んだけど……
「………はれ? 地面が……ぐにゃ………」
 …ぐにゃ…してるよう……。
 
 あたしが意識を手放そうとしていたその時、瞳に映ったのは……大好きな…
 
……イフ…?
 


***

 
「………ネーブル!………」
 しっかりとネーブルを抱き留める。
 ネーブルの身体は軽く、細くて……。
「っ………」
 壊れるのかと思って、少し腕をゆるめてみた。
 すぐに手元にある水を口に含む。無理矢理重ねたネーブルの唇は、この暑い中冷たかった。
「………ん……」
 こくん、とネーブルがようやっと水を飲み込んでくれる。
 
(後をつけてきて正解だったな)
 まさか一人で穴掘りに行くとは。
「?」
 握りしめられていたネーブルの拳を開いてみる。顔が固くなった。
 腫れ上がった手……細いネーブルの指には痛々しくて。
 そっとネーブルの指に唇を近づける。
「……オレが、悪かった……」
 誰も聞いていない、砂漠の空にそっと呟く。
 一人より二人…なんて、お前と一緒にいて初めて思った。
 オレはお前を失ったら、また一人に戻ってしまう……そんな事を考えると、お前から目が離せない。
 ふと、ネーブルが掘っていた穴に目がいく。
 
 
「……何だ……? この穴……何か埋まっている、のか?」
 


***

 
 目を開けると、自分は岩に寄りかかって座っていて……目の前には、そう、本当に目の前にイフの心配そうな顔。
 滅多に見られない表情で、思わずイフに抱きついてしまう。
「………!?……………心配させるな」
ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
「ごめんね……」
 どうしてもレベルを上げたかった。イフに負担をかけないくらいに。
「レベルの事は………忘れろ」
 めずらしく優しい声でそう言ってくれる。
 そうしてすっと目の前に何かを出す。
「………?? カギ? おもしろい形のカギだね。
 獣の形をかたどってるのかな??」
「おそらくな。お前が掘っていた穴から出てきた」 
 ぽん、とあたしの手のひらに乗せてくれる。
 あたしが途中で諦めようと思っていた金属は、これだったのかぁ。
「へぇぇ!! って、……イフ」
「何だ」
 何となくだけど、イフがあたしから目をそらす。さっきからおかしいな、とは思っていたけど。
「もしかして……穴掘りレベル、上がったの??」
「う゛……まぁ、な」
 「気にするな」と、苦い口調でイフが何度も言う。
「どうしてあたしは上がらないのっ〜!!」
 悔し紛れにそう叫んだら、イフにますます抱きしめられた。
 
「…別に上がらなくてもいい……お前はそのままでいてくれ……」
 耳元で囁かれる。
(だから、オレから離れるな…)
 そう聞こえてしまったあたしは、自惚れやさんかな。

 
エディン、そこは見渡す限り砂漠におおわれた、
時の閉鎖された場所。
 
 
 
二人一緒なら、時だって紡いでいける。
足りないところを補っていけるね。

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