神様の消えた日
「ねぇ、アース! 降誕祭って知ってる!?」
 
 
 ある日、青い空を見上げながら、ぼくの一番大切な少女は不思議なことを言い出した。
 
「知らない。…何かを祝う日なの?」
 全然聞いたことのない言葉だったから、素直に少女に尋ねてみる。
 ふふっと少女が嬉しそうに笑って、ぼくの方に顔を向ける。
 
「遠い国の行事なんだって。神様が地上に降りてきてくれた記念日だってよ!  あ・神様の誕生日を指してもいるみたい……」
「やけに詳しいね、ネーブル……!」
 怖いくらいに説明口調な少女を見て、でもすぐに答えが判って。
 
 ぼくの表情を見て、少女がぷーっと顔を膨らませる。
「あーっ!! 笑ってるアースってば! そーです。
 どーせ風の噂から聞きましたっ!」
 少女の片手に、ぼんやりとした光。
 数秒後、その光は風に吹かれた雲のように少女の手から消えてしまう。
「ごめんね、ネーブル」
 笑うのをこらえて、そしてそんな少女を愛しく思いながら抱き寄せる。
 少女もぎゅうっとぼくを抱きしめ返してくれる。
「風の噂の続きね?
 その遠い国ではね、降誕祭の日に必ず『雪』が降るんだって。
 で、その日は神様がお願い事を叶えてくれる日なんだってよ?!」
 瞳を輝かせて、その国の行事を語る少女は……本当に純粋で。
 
「ネーブル…風の噂に翻弄されすぎてるんじゃぁ……」
 ついそんな事を言ってしまうこの頃のぼくは、いじわるかも。
「翻弄されててもいいんだもん。『雪』、アースと一緒に見たいなぁ…」

 
 ぼくの腕の中にある、宝物の少女。
 心に響く声は、君の言葉だけ。
 《ぼく》でいられるのは君のおかげ。
 君だけのため。
 きっと君は知らないだろうけれど。
 

 そっと少女の瞼に指を置く。
「目、閉じて。5つ数えたら開けてみて、ネーブル?」
 
「ん。わかった」
−これから何が起こるのか? 好奇心一杯の少女の顔。
 そんな少女、全てがぼくは愛おしい。
 
「数えるよ? いち! に〜い、 さーん よーーーーん!!」
 
 ぱっと少女の瞳が開く。
 そしてその深い赤紫色の瞳を、空に向かって大きく見開いた。
「どう? ネーブル」
 放心している少女に向かって、いたずらっ子の心境で問いかけてみる。
 
―…空から舞い落ちてくるものは。
 
 それはゆっくりとネーブルとボクのまわりに降り積もっていく。
 
「…………アース」
「うん? 雪じゃなくて風の噂でごめんね」
 ぎゅうっと少女がぼくの腕を抱きしめる。
「……ありがとうっ! 大好き!!」
「ぼくもネーブルが大好きだよ」
 二人で告白しあって、なんでだか照れちゃうね。
 俯いた少女の顔を上げて、ぼくは覆い被さるようにキス。
 重なり合った唇は、二人ともやけに熱がこもっていた。
 
 
「願い事、叶っちゃった」
 少女がぼくの腕の中で笑う。そしてその笑顔と発言でぴーんとくる。
「え? もしかして今日がその降誕祭とかいう日なの?」
「そうだよ! 『アースと一緒に雪が見られるように』叶っちゃった」
 「えへへへ」と更に少女は深く笑う。
「何か深い意味でもあったの?」
「ううん! 別になんでもないよ!?」
 ぶんぶんと首を左右に動かす。
「………??」
「乙女のロマンスってもの!」
「?? ごめん。わからないや……」
 時々少女はおもしろい発言をする。女の子って永遠の謎かな。
 
「アースは…、アースのお願い事は何? あ! アース一応神様だっけ!?
あたしってばアースを神様なんて一度も思ったことないからなぁ。アース、お願い事はあるよね?」
 少女がくったくなく笑って問いかける。
 その問いかけは酷く甘く残酷で。
「ぼく?……ぼくの願いは……」
 でもぼくは少女に心配なんてさせたくはないから、表面的には笑顔で。
「うん、なあに?」
「ネーブルとずっとこうしていられますように」
 ぎゅうっと少女を抱きしめる。
 それも本当の願い事。
「きゃぁ。もうっ! アースの甘えんぼ!!」
 ポカポカと背中に回した腕で、少女がぼくの翼を叩く。
 
 
「大好きだよ、ネーブル……愛してる」
 
 
 
 
 

―ぼくの願い?
 もしもそんな善良なモノがいるとしたならば。
 お願いだからぼくを人間にして。
 
 少女の側から引き離さないで。
 黒く染まりつつある翼が、少女と過ごす時間を奪う。
 ぼくは、どうなるんだろう…。
 
 

―我は………聖神…アース…―

  
 もう一つのぼくが目覚め出す。
 それは、確信。
 
 
 
 
 
 同じ青い空を見上げながら、ネーブルには聞こえないようにぼくは呟いた。
 
「神なんて、消えてしまえ」








ここまで読んで下さってありがとうございます。かなりオリジナル設定入っているお話です。
IFのネットゲームに、アースとネーブルちゃんは登場しているのですが、アースは聖神アースとか名乗って、全くかわいげのない大人キャラになってるし、一部のユーザーには「打倒アース」とか言われてるし(涙)
 
というーわけで、
ここでは《アースがネットゲーム寄りの聖神に、アース自身が望まなくても変化しつつあるが、ネーブルちゃんの為だけに今の自分を保っている》という、本当にドリームなオリジ設定でいかせてもらいました。


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