微妙な気持ち 微妙な関係
本当にがんばってボクを自由にしてくれた君だから、
  
よろしく、アース!
  
…本当に嬉しそう、楽しそうに君は笑ってくれたから、ボクは君の側にいたいと思ったんだ。この気持ちは、どう表現したらいいの?
 
 
 
 ボクの名前はアース。世間では天使とか、神とか言われる。凄い力を持つ種族らしい。ボクらは翼が生えているのが特徴だ。
 でも、ボクはずっと封印されてきた。ボクは災いを招く呪いを受けているらしいから。
 この黒い翼が何よりの証拠。だからボクは何の疑問も持たず封印されてきた。疑問なんか、不満なんか、ボクにはなかったよ。
 それに、風の声に耳を傾けて…ボクは世界中、旅できた。絡みついた鎖は、別に動く気はなかったから気にならなかったしね。
 世界が滅びるまで、ボクはずっとこのままいればいいんだと思っていたんだよ?
 
 
「ネーブル!」
 自然にボクの口調は弾んでいて、そしていつでも少しの緊張感。
 ネーブルに話しかけるとき、ボクはいつもこの感覚に囚われる。
「なぁに、アース」
 ネーブルが振り向いてくれる。ひらりとネーブルのスカートの裾が舞う。それだけでボクの胸の鼓動は跳ね上がる。
 
 でも、今のボクの顔はちょっと情けないかも知れない。
(何でこんな所いるんだろ…)
 ぼんやり思う。
 現在の状況は最悪かなーとか、ボクは考えている。
 目の前にいるのはネーブル。これはいいケド。
 問題はネーブルの後ろにいるヤツだ。
 ネーブルはボクに顔を向けてくれたけど、手は前にいっている。そして何かを触っている。それはヤツの腕で。
 
「イフ…だっけ?」
 小声で呟く。そしてネーブルの後ろにいる、赤髪の男を見つめた。
「…? アース??」
 ネーブルが首を傾げる。後ろのイフが、無言でボクを睨んだ。
(ネーブルに触れた…触れた…)
(なんだ、このガキは…殺す)
「何でもない、よ…」
 にっこりボクが笑ったら、ネーブルは安心したのかまたイフの手当に戻った。この場の雰囲気に気が付いていないみたいで。
 
 
(近頃胃が痛いよ…ボク)
 ネーブルは誰とでもすぐにうち解けてしまえる性格。それはとてもいいことだとボクは思うけれど…
 
「よっ! ネーブル! 何かいいお宝見つけたかっ!!」
「あら、ネーブルちゃん。今日もかわいいわね♪ さらって行きたいくらい☆」
「ネーブル、その、なんだ…今度私とっ…!」
「またお会いしましたね。会うのを楽しみにしていましたよ」
「なぜ……俺に構う……?」
 
 なんでネーブルが他人と話しているとイラつくんだろう?
 この気持ちは何だろう?
 このモヤモヤはなんなんだろう?
 ネーブルと出会ってから、ボクはいろいろな気持ちを知ったよ。
 
 たとえば自分の意志というもの、自由に憧れる気持ち、それは全てネーブルを見たから。
 ボクはネーブルの願いを叶えてあげたい。「なんでも願いの叶う石」を見つけて、ネーブルを喜ばせてあげたいと思う。
 ボクの気持ちがそう望んでる。そしてとても幸せで一杯になるんだ。君がボクに教えてくれた気持ち。
 
 でも、近頃ボクの気持ちはおかしい。絶対おかしい!
 ネーブルが他人(異性)と話している姿を見ると…こう、何かが…
 
 
「アース、今日はなんだかおかしいよ? どうしたの?」
 ばっと顔を上げる。
 いつの間にか死神の洞窟はぬけていて、ボクとネーブルは火を囲んで座っていた。もう空には星がきらめいていて、涼しい風が砂漠の砂と一緒に吹き抜ける。
 上の空のボクを、ネーブルが懸命に引っ張ってきたのかな…。
「…ごめんね。本当に今日のボクは変だね…」
 つい地面を見つめてしまう。
 
「アースっ!!」
 ネーブルが笑った気がした。とても優しい顔で。
「!? う、うんっ?!」
 返事をしながらボクはそのまま身体を硬直させてしまう。
 
 背中の翼がぴく、と揺れた。
 
 突然ネーブルに寄りかかられて、ボクの頭はぐるぐる。
 顔が上げられない…。
「…………」
「…………」
 無言。二人とも無言だった。
 何をこの状況で話したらいいんだろう。
 
 
「………………そんなアースも好き…だからね…」
 小さな、途切れ途切れの声。
「え、ネーブル……」
 ようやくボクは顔を上げる。と、「ことん」とネーブルの身体がボクの胸に倒れてきた。
「…………ん…………」
「……寝てる…」
 無防備な寝顔。でも何より強い心の持ち主。
 とくん、と胸が熱くなる。こんな気持ちボクは知らない。
 君にあって初めて知った。
「この気持ちはどう表現したらいいの……」
 ボクはそっとネーブルの頬に手を当てた。そのまま顔を近づけてネーブルの顔を眺めてみる。
 
「……」

 
 
 
 
−近く、もっと近く。ネーブルの体温が感じられるくらいに近く−
 
 
 
 


「……おはよう。アース! 今日もいい天気!」
 んん、とネーブルが身体を伸ばす。
 
…本当に嬉しそう、楽しそうに君は笑ってくれたから、ボクは君の側にいたいと思ったんだ。
 
 ボクは「そうだね」と言って笑い返した。
 もう、悩まない。
 この気持ちに気が付いたから。
 
「ふふっ☆」
「どうしたの? なんだか楽しそうだね、ネーブル」
「いい夢見ちゃったの♪」
「ユメ?」
「アースにキっ…きゃあ! ここからは言えないよ〜」
 頬を赤らめて走り出す。
「あっ、ネーブル!」
 ボクも慌てて追いかけ出す。
 ずっとネーブルをボクは追い続けるのだろうか。
 それもいいね。

この気持ちは、どう表現したらいいの?
(夢じゃないかもしれないよ? ネーブル?)
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