桜舞う世界の
忍人の書終幕後
周囲の喧騒など全て消え失せた。
 
 
風に遊ばれ舞い散る桜

暖かな日差し

地面は一面薄紅の世界
 
 
 はらはらと舞い落ちる桜の花びら一枚、それをゆっくりと追う様に視線は地面へ。綺麗だと感じた。綺麗。とてもきれい。
 白い頬に、藍色の髪や服に舞い降る桜。
 人は、本当に見たくないものは心が拒絶して、麻痺してしまうのかもしれないと、知った。
 綺麗で綺麗で…けれど、夜さえ照らす清廉な天空の瞳は閉じられたまま。
「…忍、人さ…っ」
 音は言葉にならず。言葉は全て桜舞う景色に攫われ。
「ぅ…やくそく…忍人さんがっ、破る分け、ない…っ…」
 周囲の喧騒など全て消え失せた。
 残ったものは後悔と喪失という思考のみ。

 私が不甲斐ないばかりに忍人さんは命を削って戦った。
 私が最初から忍人さんの事に気が付いていれば!
 私が、忍人さんを殺したようなものだ!
 違う、と。彼の人はきっぱりと否定するだろう。
 けれど彼の人は倒れ伏し、私に聴き入れる心などなく。


 どれほど自分を責め続けたのだろうか、突然思考が開ける。
 そして零れた言葉。
「…黄泉比良坂…」
 以前、柊が少しだけ洩らした言を思い出す。

---我が君、そこへ行ってはなりません…

「じくうのはざま…まよいこむ…」
 貴方がいない世界なんて、信じない。認めない。


-風に遊ばれ舞い散る桜
-暖かな日差し
-地面は一面薄紅の世界
 この風景を私は一生忘れないだろう。

 全て振り切って、少女は時空の狭間に足を踏み入れる。
 人も国も友人達よりも、たった一つ自分のエゴの為に現在全てを捨てて。
 彼と紡いだ記憶を1人だけ抱え少女は進む。
 その歩みには迷いなく。


「私は、運命を変える」
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2008/6/30
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