うららかな朝。
 地球の、日本の、平和なとある家の前で。
 薄桃色の髪をした少女がすうっと大きく息を吸い込んだ。

 
「た・か・み・ち・さーんっ! あかねでーすっっ!!」
 そうして大きく「鷹通」という人物の名を呼ぶ。
 とにかく大きな声で、きっとご近所にも響き渡っただろう。
 数秒もしないうち!に、すぐにその家の扉がガチャっと開く。

「おはようございます。あかねさん、今日もいいお天気ですね」
 出てきたのは落ち着いた感のある、物腰の柔らかそうな青年。
 眼鏡越しの知的な瞳が、とても優しそうに少女を見つめる。
 ほんの少し現代離れした雰囲気を纏っているのは、気のせいだろうか?
「! あかねさん?」
 むうと、少女が「さん」付に抗議する。
 青年は優雅な動作で少女を家に招き入れる。それに従って、少女は青年の家に入っていく。
「……鷹通、と貴女が私を呼んでくれるのならば…」
(「さん」付はやめます)と言う変わりかのように、途中でにっこりと青年は微笑んだ。その一瞬後すぐに、ぼぼぼぼっっ!!っと少女の顔が朱に染まる。
「うっ…た、た鷹、通。…………さん……」
 がっくりと少女が頭を下げる。
 結局自分も「さん」が取れなかったらしい。

 青年が少女を居間へと案内し、二人はそこのテーブルの席に落ち着いた。
 青年が二人分のお茶を用意し始める。
 しばらく、暖かな沈黙が流れる。
 少女は感慨深げに青年を見つめる。
「はい、あかねさんには紅茶。熱いですから、火傷には気をつけて下さいね」
 コト、と少女の目の前に、熱い湯気をたてた紅茶を差し出す。
 そうして自分の目の前には緑茶を置き、椅子に腰掛ける。
「ありがとう、鷹通さん」
 嬉しそうに少女は微笑んで、紅茶に口を付ける。
 一口飲んで、少女が青年に顔を向ける。
「……今、ふと思ったんですケド。鷹通さんがこっちに来てから、もう4年も経つんですよね……」
「そういえば、そうですね…」
 青年も過去を思い出すかのように、ふっと少女の顔を見つめる。
「もうすぐ出会った頃の鷹通さんの年齢を自分が追い越すなんて不思議……」
 ふわりと笑った少女の顔、それは幼い笑顔ではなく、かといって大人びた笑顔でもなく…その中間の乙女の笑顔。
 少女の殻を脱ぎ捨てて、美しい女性に変わっていく、その狭間。
「…いろいろありましたね」
 少女の微笑みに見とれていた青年は、しばらくの間を置いて話を切り出す。
「あったよね!! 大サービスで鷹通さんの戸籍とかを龍神様が創ってくれたコトとか…鷹通さんが大学合格とか……なつかしいなぁ」
「……貴女のためなら、私はできることなんでもしてみます」
 青年の言葉を聞き、少女の瞳が突然潤む。
「っ……ごめ、っなさい…。嬉しすぎて、幸せすぎてっ」
 青年が席を立ち上がり、少女の側に近寄る。
「泣かないでください…。貴女には笑っていてほしい。私の我が儘ですが」
 そっと少女の涙を拭う。
「鷹通さん……」
 少女の顔に笑顔が戻る。
 青年も微笑む。
「もう少し時間がかかると思うのですが…院を卒業して仕事に就けたら、私と結婚してくださいませんか、あかね?」
 「さん」付無しで呼んだ少女の名前の効果は絶大だったのか…はたまたそれ以上の何かがあったのか、青年に思い切り少女は抱きついた。
「嬉しいですっ!
 …わたしが断るワケないじゃないですかっ!!」
 「ずぅーっと待ってたんですよっ!!」と言って、ボカボカと青年の胸を軽く叩く。
「すみません。まだ、自分に自信がなかったもので…。この時代で、貴女を幸せにしていく自信が欲しかったんです……」
 すまなそうに青年が謝る。
 少女は青年の眼鏡をそっと外す。コトリ、と机の上に眼鏡を置く。
「ありがとう…、鷹通さん。だけど!
 わたしは守られるだけの女の子じゃないからね!?」
「はい」
 嬉しそうに青年が笑いながら頷く。
 
「わたしも鷹通さんと歩いていくの。一緒に幸せを与え合う存在になろうね」
「はい…」
 青年が、壊れ物を扱うように少女の両頬に手を添える。
 そうして、少女の唇に自分の唇をゆっくりと重ねる。
 


 貴女と歩いていくために、私はできることならなんでもします
 貴女も、そうでしたね
 
 一緒に、歩いていきましょう
 
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