大切な言葉
 一瞬の告白。
 わたしを好きだと、鷹通さんはうち明けてくれた。
 そして、「忘れて下さい」とも鷹通さんは言ったね。
 
 忘れない。忘れる事なんて出来ない。あんなに大切な言葉。


 
 
 鷹通さんは、わたしに対してとてもあきらめが良い…と思う。
 特に、わたしが「現代に帰る事」に関しては。
 
 
『貴女は帰ってしまわれるでしょう…』
 
 
「帰ったり、しないのに…」
 鷹通さんのたった一言さえあれば、わたし…。
 涙が零れる。
 きっと鷹通さんは言ってはくれない。言わないことが、わたしの幸せであると思っているから。
 部屋で一人うずくまって、辛気くさいなわたし。
「四神解放が近いから、余計に考えちゃうんだよね…ぐすっ…」
 手近にあった半紙で、涙と鼻を拭ってしまう。
「あきらめがよすぎても…鷹通さん、大好き…」
 ぽてっと畳に寝転がってしまう。
 視界に映る外はさんさんの晴れ。わたしの気持ちなんかお構いなく、外は暖かい雰囲気。
 
 
 もうすぐ最後の青龍解放…。
 
 
   ■
 
 
「…殿? 神子殿? 失礼します。神子殿」
 すっと御簾を上げて、鷹通は部屋に入る。
「っ…」
 足を一歩踏み入れて、鷹通は後悔した。
 今日は自分と出かけてはくれないか、聞きにきただけなのだが…。
 
 
 畳に気持ちよさそうに体を伸ばし眠る神子。
 でも頬には、涙の乾いた後。
 無意識に、鷹通の体があかねの側まで近づく。
 あかねの顔を覗き込むようにして膝をつく。
 そっと、本当にそっと、神子の頬に手を伸ばしてみる。
 柔らかくて、暖かい。
 
 
−彼女は、確かに「ここ」にいる。
 
 
 そうして、はっと、目を見開いた。
 
 
−自分は、何を確認している?
 
 
「私はっ…」
 鷹通は眼鏡を外す。
 眼鏡が涙の暖かさで曇ってしまったから。
 いつの間にか、鷹通の瞳には涙。
「情けないですね。もう、わかっている事なのに」
 あかねの寝顔を見ながら、鷹通は涙を零す。
 あかねの頬…涙の後に、鷹通の涙が落ちる。
「本当は、帰ってほしくなどありません…本当は…」
 
 
 鷹通は、自分の唇をあかねの頬に寄せる。
 頬の涙の後をなぞるように、唇は優しく動く。
 そうして。
 
 
 あかねのふっくらとした唇に、そっと鷹通の唇が重なる。
 
 
「…許して下さいなんて、言えませんね」
 ふっと自嘲的に笑うと、鷹通はあかねの元から素早く退く。
 これ以上側にいたら、自分が何を彼女にしてしまうのか、恐ろしかった。



   ■
 
 
 
 むくり。
 わたしはそっと、体を起こした。
「起きていたの、知られなかったよね…」
 顔、赤くなってないよね?
 
 
 わたしの方まで、また泣きたくなってきたよ鷹通さん。
 
 
「そういうことは、起きているときに言って欲しいんですっ!」
 誰もいない空間に怒鳴って、ちょっと落ち着く。
 頬に鷹通さんの涙が落ちてきたとき、わたしは目が覚めた。
 今更目を開けるのもなんだから、寝たフリをしてたけど…。
「た、鷹通さんに…キスされちゃった…」
 時間差で、キスの余韻が蘇ってくる。
 ぺち、と熱い頬を叩く。
「…わたし、帰ったり絶対しませんから!!」
 誓うように、呟く。
 
 
 本当は帰ってほしくなどありません…本当は…
 鷹通さんが表面上、どう思っていても、わたしはね…。
 
 
 本当は…貴女を思い出で終わりにしたくはないのです。
 あかね…
 
 
 鷹通さんの本心をしってしまったから…。
 
 
「わたしも、鷹通さんを夢なんかで終わりにしたくない…」
 四神を解放してから、全ての決着を付けてから…何て言ってわたしはここに残ろうかな?
 くすくす笑ってしまう。
「なんだか先が楽しみ」
 
 
 
−忘れない。絶対に忘れない。忘れる事なんて出来ない…
 
 
 
 
それはとても大切な言葉。

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