恋慕
「わたし、元気ですよっ! 元気だけが取り柄ですもん」
 にっこりと貴女は笑う。
 大きな瞳を驚いたように見開いて、返事を返してくれる。
 私の不安も心配も、全て否定するように。
 
 貴女は、「大丈夫」といつも笑う。
 でも、知っているのです。
 貴女が、誰もいないところで涙を流していたことを。
 神子としての不安に、涙していたことを。
 そして…
 
「わたし、鷹通さんの期待に応えられるの?京を平和に出来るの…」
 その言葉を偶然聞いて、胸が締まりました。
 貴女は、十分過ぎるほどがんばっています。
 貴女の存在それだけで、私達八葉は…私は、力が漲ってくるのです。
 
「私は…貴女を苦しめているだけでしょうか…?」
 ぽつりと、呟いてしまった一言。
 『肯定されたら…』いつでもそう思って、そして飲み込んできた言葉。
 私は貴女に関して、どうしてこう臆病になるのでしょうね。貴女の言葉一つで、私は不安にもなれば幸福にもなれる。この気持ちは、なんなのでしょうか。
 
「苦しめてなんて…そんなことないよ!!そんなことない!!」
 大きな声で、おもいきりよく否定してくれる。
 真剣な貴女の顔。
 抱きしめたい、貴女を独占していたい。
 愚かで、哀れな私の感情。
 この気持ちは…。
 
「今度、お時間があれば私と出かけませんか? 神子殿にお見せしたい場所があります」
 私は貴女に笑いかける。
 貴女は、嬉しそうに笑って頷いてくれました。
 
「見せたい場所」なんて、口実。
 私は、貴女と二人だけになりたかっただけ。
 自分のこの気持ちに、けじめを付けるため。
 知ってしまった、わかってしまったこの気持ちに…。
 
「鷹通さんと一緒なら、わたしどこにでも行きますよ♪」
 貴女がずっと、京にいてくれたら…。
 貴女の気持ちを乱すだけであろう、私の気持ち。
 今度うち明けるでしょう、うち明けてしまうでしょう。
 
「私も、神子殿の行くところならどこへでも行くでしょう」
「え?!」

 
 
 私は、貴女に恋をした。
 龍神の神子である貴女に。
 月に帰ってしまうであろう、貴女に。
 ただ貴女の側にいたい。

…愛しています。
 決して貴女には聞こえない声で、私は呟いた。
 
 愛しています。愛しています。
 何よりも、誰よりも…
 
 
 
 ずっと、永遠に。
 
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