いつかきっと行ける永遠
「フィン、話があるっ!」
 
 どちらかといえば父親似の、だけれども好奇心旺盛な所は母親似の少年=リーフがフィンに話しかける。
 今、リーフの表情は、好奇心旺盛な年相応の少年の顔。
…戦場では見られない顔。
 こういう表情を見る度、フィンはほっとする。
…この状況の中、リーフはどこ曲がることなく成長してくれた。
 
 聖戦は終わりを告げ、ある意味これからが本当の戦い。それでも少年は明るく笑ってくれる。
 
「はい、なんでしょうか?」
 
「父上と母上の話を、聞いておこうと思って」
 フィンにとっては不思議な事を、リーフが口に出す。
「??」
 幼いときから、リーフには2人の話を嫌というほど話してきた。そういうわけで、この突然の「話」は不思議なことだった。
 にっこりと、リーフがエスリン似の甘い笑顔を見せる。
「いつも聞いている話じゃなくて。フィンが感じた二人の話を聞きたい」
 
−飾らなくてもいいから、立派でなくてもいいから
…普段の2人の事が知りたい。
 
「それは…」
「一番身近にいたフィンなら知ってるだろ?」
 近くの大窓の枠に、身軽にリーフが飛び乗った。
「リーフ様!!」
「これくらいは大目に見てくれよ、フィン」
 片目を器用に閉じて、ウィンク。
 
《…これくらいは大目に見ろ、フィン…》
 
「あ…?!」
 今しっかりと重なった、姿。

 
 
 □


 
 
「フィンは生真面目すぎるぞ」
 
 苦笑しながらキュアン様が断言する。
「そこがフィンらしくていいけれど、でしょ?」
 エスリン様がいたずらっこのように言葉を追加する。
「…エスリン。それじゃあグチになってないだろ」
 おろおろしている私を目の前に、二人の会話はぽんぽんと弾む。
 なんとなくだが、自分はお二人に遊ばれてる?
「グチるつもりだったの? フィンに? フィンは生真面目なんでしょ、 真剣にその言葉を取っちゃうかもよ。ねえ、フィン?」
 くすくす笑ってエスリン様が凄いことを言う。
…その通りで何とも言えないが。
「うー。俺をイジメて楽しいか、エスリン…」
「ええ、とっても。大好きなあなたですもの☆」
 ぎゅっと、エスリン様がキュアン様の腕を抱きしめる。
 私はダシ?
 いやでも、こんなお二人を見ているのが一番平和だと思う。幸せだと思う。

「君には一生勝てないよ、エスリン。…フィン」
「は、はいっ!!」
 大きな声で返事をしすぎたら、お二人に爆笑されてしまった。
 でも、優しい眼差し。暖かい空気。いつだってこのお二人のいる場所が、自分の帰るべき所。
「からかってすまなかったな。あー、で何だ、その」
 エスリン様が横からキュアン様の脇腹をつつく。
「私達二人、生真面目で頑固なフィンが大好きよ。さっきの事は気にしないでね」
 少女の面影を残した笑顔で、エスリン様がそう語る。
 
−『弟みたいでつい、構いたくなるのよ』と言ったエスリン様に、キュアン様が『そうかも』と言って笑った。

 大切で、大切で…そして…大好きだった場所。
 お二人がとても好きでした。
 主君として、騎士として…暖かい絆として…


 
 
「フィン?!」
 リーフが慌ててフィンの側に駆け寄る。
「大丈夫か?? 急に涙を流すからっ!」
 困った顔。
「は。大丈夫です…。少し、気が緩んだようで、情けないですね」
「…別に無理に話さなくてもいいよ?」
 妙に悟った顔でリーフが呟く。
 フィンは涙をぐいっと手の甲で拭うと、リーフに思い切りよく頭を下げる。
「いいえ。喜んでお話しさせていただきます」
 顔を上げたフィンの表情は、とても晴れやかだった。
 
「本当かい!」
 破顔して喜ぶリーフ。でも、少し不満そうに話す。
「フィンは僕の家族同然なんだから、誰もいないところで頭なんか下げないでよ?」
「は、はぁ。善処します」
 ぷっと、リーフが吹き出す。
「生真面目だなぁ、フィン。でもそんなフィンが大好きだよ!!」
 フィンは静かに微笑む。

  
どんな深い絶望が襲ってきても、けっして希望は絶たれない。
いつかたどりつける場所があると、帰る場所があると、私は知ったから。

−キュアン様とエスリン様は、生き続けている。
 
それはリーフ様の中に。
アルテナ様の中に。
人々の記憶の中に。
  
…私の中に。
 
永遠に受け継がれていくのだ。

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