> ★=「後日談」ありの世界設定でのお話
☆=「後日談」なしのオリジナル4年後世界設定でのお話
マーク無し=ピアスとパズルだけを持って旅するバゼットさん
★=「後日談」ありの世界設定でのお話
☆=「後日談」なしのオリジナル4年後世界設定でのお話
マーク無し=ピアスとパズルだけを持って旅するバゼットさん
 
> ★=「後日談」ありの世界設定でのお話
☆=「後日談」なしのオリジナル4年後世界設定でのお話
マーク無し=ピアスとパズルだけを持って旅するバゼットさん > 下に行くほど新しいですよ。
下に行くほど新しいですよ。
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題
「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > あなたと
2005/12/13
あなたと
これのみバゼット→アンリ
そこは、別段変わったものなどない山間の風景だった。
 
 昔は人々が生活していたのだろうか。しかし今は人影などなく。
 
 白っぽい崩れたガレキが多数あり、辺り一面に広がる草原。
 ゴツゴツした岩が牧草の合間を埋めるようにちょこちょこと顔を出している。それはもう、景色の一部となっていて、違和感なく調和していた。
 
 少し標高の高い場所なので、空気が薄いような。
 景色全体がきりっとした静謐な空気をまとっている。
 
 
 
「----これが、貴方の見ていたものか」
 
 
 
 呟いて、息を吐いて。
 
 
 奇跡の4日間。
 
 
 その永遠に繰り返される4日間の中で、蘇生する私が時々夢見ていた風景。
 
 
 それは【誰が】見ていた景色だったと。
 見ることしか許されなかった景色だったと気づいたのは。
 
 
 憎くて憎くて憎くて。
 それでも夢見るほど彼が思い返す景色。
 
 
 
「帰ってきたよ」
 
 今はもういない貴方に。
 けれど世界中にいる貴方に。
 
 
 皮肉な笑みを浮かべた姿を思い出して苦笑。
 別にアンタと会う気なんてこれっぽっちもねぇよと、空耳が聞こえるほどその存在を意識する。
 
 今はもういない貴方に。
 
 
 
「お前と一緒に色々な世界を見たかったよ--------アンリ」
 
 言葉は静謐な世界に溶けて、お前にまで届くだろうか。
 
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > ああとても
2005/12/18
ああとても
バゼットねぇさん、【誰か】さんを召喚するの巻。
自分自身の幸せの為にがんばれバゼットさん!(笑)
…バゼット、世界は続いている。
 そう言ったアイツは、今は遙か遠く。
 私だけの奇跡の4日間に。
 
…自身がこの世界に不要だと思うのならば---おまえは、おまえを許す為に、多くの世界を巡らねばならない。
 そう言った彼は、自分自身を知る為に世界を敵に回した。
 
…まさか、背中を任せられるヤツと組めるとは思わなかった。
 そう言って無邪気に笑った英雄は、私の悩みをあっさりと流して。
 全て受け入れて去っていった。
 
 悩んで這いつくばって、それでも前に進む事。
 私自身を許せるようになる事。
 自分の為に生きること。
 
 やっぱりまだ、私は私自身が好きにはなれないけれど。
 臆病で、悩んでばかりだけれども。
 多くの国を旅して。
 海を渡り、空を越えて。
 
 自分自身の願望を叶える為、今ここにこうして立っている。
 
「どうやって納得させましょうか…」
 私のたった一つの我侭で自分勝手な願い。
 それは【誰か】や【世界】を巻き込んでの大騒ぎになるかもしれない。
 ああ、でもそれはとても…幸せかもしれない。
 
 ついつい抑えきれずに笑ってしまって。
「覚悟していて下さいね?」
 これから呼び出される相手に囁いた。
 
 
 さあ、ルーンを刻んで。
 
 私の最大級の我侭を突き通そう。
 
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 夢の中の住人は君に
2005/12/21
夢の中の住人は君に
「…っ。すみませんランサー。少し時間を稼いで下さい」
 そう言って瞳を閉じたスーツ姿の女は、何の警戒もなくオレの腕の中に崩れこんだ。
「おいおいおい。いきなりこれか」
 こっちは召喚されたばっかりで、まだ状況も把握してねーぞ。
 ただ、この女を捨ててどこかに行こうとは思わなかった。女子供は殺さない、見捨てない主義だ。
「それでいい女だったら余計に見捨てられねぇな」
 腕の中にいる女を眺める。
 28〜30歳辺りだろうか、整った顔立ち、均整の取れた身体、無防備に閉じられた瞳。スーツを着こんでいるため女性らしい優美さこそないが、着飾らなくとも感嘆する美しさ。そして感じる半端じゃない魔力量。
 瞳を閉じている姿はえらくオレの欲情をそそった。
 そしてふと目についた。耳に付いているその、
  
 
「……バゼット…?」
 
  
 声に出してもまだ自分の言葉を疑う。
 なんでおまえが。
 
「夢か?これ」
 英霊は夢なんか見ないハズなんだが。
 見ているのはそもそもいくつもある世界に召喚されたオレの記憶。
 そしてそれは「オレ」まで届かず記憶は消去されるハズ。
 が、考える事はそこで止めざるをえなかった。
 
 感じる複数の人間の気配。それは消そうとしても出ている殺気。
「三流っぽいのばっかりな気配だな。ま、バゼットが起きるまでのヒマつぶしか」
 
 すでに手に握られた赤い槍。見慣れた相棒。
 
「ラン、サー…」
 思い出した聞きなれた声が、無意識なのか言葉を落とす。
 瞳は閉じられたまま。
 
 まぁなんだ。これが夢でも現実でもなんでもいい。
 少しどころかいくらでも時間は稼いでやるから。
 
「ちゃんとオレを見ろよ」
 目を開いた時、最初に視界に入ってきたのは。
 祈るように願うようにこちらを見つめる揺らいだ赤茶の瞳。
 
 本当に夢じゃないのかと疑いたくなるから。
 
 
----意識を失った私に確かに聞こえた想い(こえ)。
   早く目よ覚めなさい。これが夢の言葉ではないと確信を持つために。
 
 
「んじゃ、サクっと片付けるかね」
 オレはそろそろ射程内に入る敵達に向けて、すっと槍を突き出した。
「定番だが死にたいやつから来い」
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 屈み込んで
2005/12/22
屈み込んで
「なあバゼット。封印指定ってヤツに指定されたんだろ?
 いいわけ、こんな敵のすぐ近くに住んでよ」
 ジャーキーを口に加えつつ、ランサーは言った。
 ヨレヨレのTシャツを身に付け、これまたヨレヨレのリーバイスのパンツを穿きこなしている、ヤンキー座りでバゼットを見上げる男。
 現在いる家にはソファや椅子があるにも関わらずヤンキー座り。
 やたらとその格好がしっくりしていて、それが彼女には少々眩しかった。
 
 しかし、世界中の異端や奇跡の結晶、知る者なら誰でも手にしたいと思う力。…には到底見えない。そんな感想を抱きつつ、バゼットは思っている事を口に出した。
 
「私は現在は協会に属していませんし、公式上、死んだことになってます。フリーの私がとやかく言われる筋合いはないでしょう。それに隠れるなんて性に合わない」
 来るものは遠慮せず倒しますよ?
 それを聞いてか、あーやっぱりなーとランサーは呟く。
「確かにそうだな。お前らしいぜ。まあ、協会の連中が襲ってきても余裕っつーか。封印指定受けたのもオレがいるからだろうし、手助けするぜ?」
 
「・・・私は守られるような女ではありません。知っているでしょう?」
 ---うっすらと笑って皮手袋に手を通すバゼット。
「げ。おぃちょっと待てバゼット! なんで拳をオレに向けるんだよ!?」
「なんとなく、でしょうか?」
 小首を少し、バゼットはかしげる。
 その姿はなんだか可愛い。可愛いのだが。
 なにやら彼女の地雷を踏んでしまったランサーは。
 
「カレンみたいな事言うな! うわ、お前なんでさらに機嫌悪くしてるんだ! まてまて話せばわかるっっ」
 更に地雷を踏んづけた模様だった。
 
 両手を合わせて、屈みこんでこちらを見上げてくるランサーを見ていたら。
 無性に嗜虐心が湧いたというか、なんというか。
 
 ---本当は違うのだけれども。
 
『オレがいるからだろうし』

 ---違う。貴方は私の我侭で呼び出したから。
 
 バゼットはごまかすように感情から目を背ける。
 いつもは見上げていた姿が今は下に。
 にっこり笑ってバゼットが構えを取る。
 
「おそらく話しても無意味かと」
 
 ---カレンの話を出す貴方がいけない。うんそう。きっとそうです。
 
「マジかよ!」
「本気です」
 その数十秒後。ランサーの盛大な叫びが聞こえたとか聞こえないとか。
 それはランサーの名誉のため、あえて語らずにおこう。
 
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 沈みかけた
2005/12/26
沈みかけた
 朝靄の降りる早朝、まだ人々は眠りについているそんな時間。呼び寄せていた車の後部座席に乗り込み、車外にいる彼を手招きする。
「行きましょう、ランサー」
「今度はどこ行くんだよ」
 移動めんどくせぇと呟やきつつ、黒のカジュアルスーツを着崩している彼が私の隣にドサリと、少々乱暴に乗り込み、ふわり、と彼の長い後ろ髪が私の肩にかかる。
 ドアを閉めると、ゆっくりと車が動き出す。
 
「今回は久々に日本です」
 私は足元に置いておいたアタッシュケースを手に取り、ぱかりと開ける。そして入れておいた書類を取り出して目を通す。
 ふーんと、特に感慨もなさげに彼が頷く。
「内容も聞く?」
 読みますよ?と尋ねると、「メンドイから現地で聞く」そう言って。
 
「ランサー?」
 私の身体に体重をあずけて彼は目蓋を閉じる。
「空港着いたら起こせよ。俺は寝る」
 すぐに静かに、そして規則正しく聞こえ出す吐息。
「まったく」
 そう言いつつも、特に怒りも湧いてはこない。彼が彼らしく、自然体でいる事が私は嬉しいからだ。
 しばらく書類に目を通していた私だが、ふと、車窓に目を向ける。
 
 霧も段々と晴れて。映るのは静かな古き良きレンガの街並み。静寂に満ちたまだ目覚めぬ街。空を見上げれば薄く沈みかけた月と、段々と辺りを照らす朝日の光。
 なぜか、表情が緩むのがわかった。
 明けない夜はない。沈み続ける事はない。この身体に感じる重みが、今は、全て。
 彼が眠っているのをいい事に、一房、青い髪を手に取って口付け。
 
「幸せ、掴み取れました」
 一緒に今度こそ歩いて行こう。
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 空の雲を手で掴むには
2005/12/14
空の雲を手で掴むには
 努力だけでは超えられない場面がある。
 それがもしかしたら今の状況か。いや確実にそんな状況だったりする。
「どーしたバゼット? 怖気づいたのか?」
 広がるよく晴れた青空と、後方に広がる青い海と、アロハシャツのやたらと似合う、ニヤニヤとガキ大将の様に笑う青いサーヴァント。
 私との身長差をいいことに、頭上から楽しそうに眺められている。
「なんなら変わってやるぜ?」
 すっとランサーの左腕が動こうとする。
 それを慌てて静止させる。
「ま、待ちなさい! 余計なお世話だランサー…っ!」
「あ、そ」
 あっさりとランサーは引き下がり、またニヤっと笑う。
 2,3発殴り飛ばしたい衝動を堪えて、顔を上げてランサーを睨む。
 
 怒鳴ってはみたものの、この局面を切り抜ける行動が私は起こせない。まるで広がる空の雲を掴むに等しい行為。どんなに努力しても掴めはしないと考えてしまう程。
 たとえ近づけても、いざ触れたらすり抜けてしまうのではないかと。余計な考えがぐるぐるぐるぐると頭に巡る。
 
「あー、時間かかるなら釣り再開すっけど?」
「…っ」
 考えているうちに少し時間が経ってしまったようだ。ランサーが後方の定位置に戻ろうと背を向けて…
「行ってはだめだっ…」
 無我夢中で、ランサーの肩を鷲掴んで振り向かせる。
 
(あ、すり抜けない)
 掴んだ瞬間、馬鹿みたいにそんな事を考えた。
 くっ、とランサーは堪えるように笑って、
「お前にしてはよく頑張った」
 
 そのまま大きな両手に引き寄せられて。
 そのまま包み込まれるようにキスされた。
 
「…っ!」
 頬に熱が集まるのを押さえ切れない。
 しかもなぜだか目頭までも熱い。
 
「なに、涙ぐむほど良かったかよ?」
 今まで私に触れていた唇が、そんな言葉を紡ぎだす。
 口から上の表情を見る勇気がない。
 が、いつも通りの口ぶりに、ヤツがどんな表情をしているかは察せられた。
 
----黙れバカランサーーーっ!
 かなり本気の拳を、間近で悠々とランサーは受け止めて。
「じゃ、遠慮なく黙らせていただきましょうかねっと」
 無理矢理合わせられた視線は楽しそうな光をたたえるピションブラッド。そして再び触れるランサーの体温。
 
 空の雲を掴みたいならば。
 ほんの少しの思い切りと。
 空をも掴む心意気。
  
  
  
 
 

 
 
 
 
 
「…なんで私はランサーにキスする事になっているのでしょう…っっ」
 
「深いことは気にすんな」
 
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 世界を一瞬で変えた、その
2005/12/15
世界を一瞬で変えた、その
 その物語を読んだ時、今まで彩のなかった世界が鮮やかに変わった。ただ生きているだけだった私の世界に、風のように走り抜けた彼の人生の物語は、初めて純粋な喜びと、楽しさと嬉しさと好奇心、そして悲しみを教えてくれた。
 そして願った大それた思い。
【彼を救いたい】
 私は、彼の絶対の味方でいる自信がある。こんな私でも、出来ることがあるかもしれない。そんな想いを、ずっと抱えてきた。
 
 
「…とか、思っていたんですが」
 テーブルに両肘を付き、ふぅと溜息。と、テーブル前方に影が落ちる。
 
「あ? なんだよバゼット独り言か?」
 青い髪と真紅の瞳の、おそらくかなり整った精悍な顔立、長身…ランサーは、片手におたま片手に鍋と、とても器用な持ち方で立っていた。
「独り言です。気にしないで下さい」
 もちろんエプロン着用。どこかの赤いサーヴァントを彷彿とさせる。彼にこんな事をさせている自分に正直悲しくなる。
 早く仕事を見つけなければ…っ!
 
「へいへい」
 おざなりに答えながら、ランサーがテーブルに鍋を置く。
 鍋の中身はクリームスープの様な液体が湯気を立てている。鍋とおたまをテーブルに置くと、くるりとランサーは背後にあるキッチンへと戻り、手早くマグカップを2つ持ってきた。
「この館、こんなキッチンありましたか…」
 いやむしろおたまにマグカップなんてあったんですか…?
 今度はサックリと私の呟きはスルーされる。ランサーはおたまで鍋の中身をさっとすくい、一つを私に手渡してきた。
「ほら、飲めよ。バイト先のおばちゃんに教えてもらった一品だぞ」
 牛乳とコンソメと野菜で作れて簡単でウマイぞ、とか呟いている。
「これはこのまま飲む物なのですか」
 手渡されたカップを受け取りつつ、結構具沢山のカップを覗く。
 律儀にサイコロ型になっているニンジン、ジャガイモ、なんとなく白い液体の中に見える緑と赤っぽいものはピーマンとベーコンだろうか。
 こういったものは、普通マグカップに入れるものなのか?
 
 あのなぁ、とランサーが飽きれ声で話し掛けてくる。
「いっつも缶詰突いてるヤツがなぁに言ってやがる。一気飲みとかすんなよおぃ」
「ぷはっ…飲みました」
「…言った側からかぃ」
 がくーんとテーブルに額をぶつけるランサー。
「ランサー、中身が零れます。不注意ですよ」
「はいはい一瞬でも目を放した俺が悪かったー」
 そこはかとなく哀愁の漂っている彼を見て、つい笑ってしまう。慌てて口を手のひらで隠すが、じろりとランサーが睨んでくる。
「す、すみません…ふふ…」
「まぁいいさ」
 テーブルから顔を上げて、私の空になったマグカップを手にとり、またスープを注ぐ。
「今度は一気飲みすんなよ、火傷もしたらヤバイしな。たまにはゆっくり味わえ! 俺の顔でも拝がみつつな」
「…善処します」
 
 2度目のスープは、久々にゆっくりと飲んでみた。
 人と一緒にゆっくり食べるって、以外に楽しいものなのですね。
 
 【彼】は想像の貴方とは全然違ったけれど。むしろ私が救ってもらっているような気がするけれど。昔私の世界を一瞬で変えたその物語は、今現在も色鮮やかに続いている。
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 手が触れるたび
2005/12/19
手が触れるたび
 貴方が私の輪郭をなぞるたび。貴方の手が触れるたび。
 貴方を愛しいと思う気持ちが溢れ出して、意味の成さない声になる。
 
 貴方が私に囁くたび。貴方の手が触れるたび。
 貴方が好きだと言ってくれた、私自身を好きになっていく。
 
 
 
「げ、バゼットどうした?」
「っ…?!」
 顔を上から覗き込まれて、自分が泣いていることに気付く。いつもは飄々としているくせに、今はやたらと困り顔の彼が妙に新鮮で。涙は止まりはしないけれど心は落ち着いていて、彼の表情を見てくすっと笑ってしまった。
「あのなぁ、泣くか笑うかどっちかにしろ」
 この状況で啼く以外に素で泣かれるとすげえ困るんだけど。
 呟かれて、思い出したかのように、身体中が熱くなる。
「-----っ。す、みませんっ」
 まるで懐いた犬が頬ずりするかのように、彼は涙で濡れた私の頬や目蓋に唇を寄せてくる。
「泣いた訳くらい言ってみ?」
 頬に声が響くくらい間近で彼が問うてくる。
「…ですね」
「小さすぎて聞こえねぇぞバゼット」
 
「…嬉しすぎると、」
「ああ」
「嬉しすぎても、涙というものは出るんですね」
 ため息のように搾り出した言葉は。
「ったくお前ってヤツは」
「呆れましたか?」
 にっと彼が笑う。
「いや、煽り上手でびっくりだぜ」
 
「は?」
 それはどういう意味ですか。と言いかけた言葉は。 
 貴方の手が私に触れて。
 意味の成さない言葉になって、口の中で溶けて消えてしまった。
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > それではまるで
2005/12/20
それではまるで
「ちょ、待ってランサ…っ」
 私の全部を見抜くように、真っ直ぐに心に進入してくる彼が、怖かった。ためらいもなく私に触れる貴方の腕が理解できなかった、臆病な私。
 どうやって貴方と向い合えばいいのかわからない。
 その時左手が、まるで意思があるかのように、思い切り彼に叩き込まれた。
 
 
 
「た、助かった…」
 衛宮邸の1室。バゼットが間借りしている部屋、そこには壁に寄りかかって息も荒いバゼットと、少し距離を置いた場所にランサーが。
 ぜーはーとバゼットは胸元を押さえて深呼吸。
 一方ランサーはあぶねーと呟いて、先ほど避けたバゼットの右腕を見つめる。
 そうして、あーと呟いてからガックリと頭を下げる。
「コイツがいやがった…。カンベンしろっての」
「あ、左手…アヴェンジャー? ふふふふ…ありがとうアンリっっ」
 バゼットも思い立って、ひしっと左腕を抱きしめる。
 あやうく流されるところでしたっ。
 
「てか、お前ソレがアヴェンジャーっての忘れてたわけ?」
 ずばっとランサーはバゼットに一撃を加える。
「う…そんなことはない、です。ええ」
 一瞬目を彷徨わせたバゼットは、取り繕うように冷静に答える。
「忘れてたわけか」
 ランサーが笑いながらツッコみを入れる。
「忘れていません! なんというか、もう自分の体の一部というか…」
 この腕はそれくらい、馴染んでいる。もう会えはしないけれど、彼の一部はいつでも一緒だ。
「…お前には本当に世話になりっぱなし」
 アンリの顔を思い出して、一瞬バゼットの心が飛ぶ。
 
「ったくやってらんねぇ」
 自分ではない誰かを思い浮かべているバゼットの表情はとても無防備で。こんな楽しそうな表情を浮かべさせるヤツを無性に殴りたくなる。
 
「ぇ、あ、ランサー…?」
 くるりと踵を返して歩き出したランサーに現実にかえったバゼットが反応する。
「帰るわ」
 バゼットに背中を向けたまま、ひらひらと片腕を上に振る。
「待ってください。私何かランサーの気分を損ねること言ってしまいましたか?」
 むしろ私の方が損ねたいくらいなんですが---バゼットは一瞬思うが、すぐに歩き出したランサーの服の裾をがしっとと掴む。
 足を止めてランサーが振り返れば、そこには隠そうとして失敗しまくっている不安に揺れる瞳。
 苦笑をランサーはこらえる。
 
「俺の前で違うヤツの事なんか考えるな」
 さっとバゼットの左手に腕を置いて、あっという間にその距離を詰める。
 交差する瞳と瞳。吐息さえかかる距離。
 先に瞳を逸らしたのは彼女。ぽつりと、呟く。

「それではまるで貴方が嫉妬しているようだ」
 まるでありえない世界の言葉を紡ぐ様に、静かに声を絞る。
 バゼットは俯いたまま地面に視線を落とす。
 は、とランサーは思わず零れた笑いを抑える。
「もっと自信持てよバゼット。お前自身は否定するかもしれねえけどな。お前、いい女なんだぞ」
 ランサーはバゼットの頭を片手で引き寄せ、額に自分の額をごつんと当てる。
 
 
 自分が嫌いで、一生好きになれなくて、それが分かっていながら、少しでも上等な自分になりたくて足掻いている、気の強いけれど弱い---。
 
 
 それは奇しくも誰が思った感情と一致する気持ち。
 
 ゆっくりと、バゼットがランサーと目を合わせる。
 揺れる瞳。
 そして瞳はゆるゆると、彼を受け入れるために閉じられた。
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 開いた扉の
2005/12/24
開いた扉の
 しんしんと夜の街に降り積もる雪。12月24日その日付が、後10分程で変わる。
 色とりどりのイルミネーションで飾られた木々が明るく道を照らす。
 そして夜の街、片手に傘、片手に包装された包みを抱え、私は大きくため息をついた。
「結局、誘えなかった…っ」
 
 ランサーを誘う事。あんなに悩んだくせに、本当に私は馬鹿だ。でももし断られたら、やっぱりショックで。きっと立ち直れない。それにクリスマスなんて、私には似合わないだろう。
 なぜ自分がショックを受けるのか、なんだかもやもやした気持ちが晴れず、自分自身の気持ちが良くわからなかった。
 
 でも思うのは。
「…がんばって誘ってみればよかった…」
 その一言に尽きる。
 
 しばらく歩くことに専念し、段々と近づく家路。
 私の気持ちを代弁するかのように、街から遠ざかる度に明かりが見えなくなっていく。
 前を見つめれば、大きな洋館。とりあえず仮宿として住んでいる双子館の片割れ、一人では大きな家。けれど。
「ぁっ…!?」
 思わず駆け出す。
 玄関の前に辿り着く。扉を破りたい衝動。
 見上げた館は、部屋中の窓から明かりがもれていて。警戒する事も忘れて、私は扉を開く。
 開いた扉の向こうには。飾り付けられたクリスマスツリーと、その隣にあるソファーに胡坐で座っている彼。得意顔の…ランサー。
 
「ランサー?」
 
「よぉバゼット。遅かったな。バイト先から拝借してきたツリーと、貰ったケーキもあるぞー」
 当たり前の様に言って笑う。
「なん・・・で?」
「なんでと言われてもな」
(まさかお前の独り言を聞いちまったからとかそんな事はないぞっ)
「ランサー? 聞こえません」
 何かをランサーは呟いたようだけど、それはよく聞き取れない。
 素早くランサーの傍まで近づいたけれど、ランサーは、まぁ聞こえなくてもいい事さと言って、今度ははっきりと声を出す。
 
「こんなイイ女を一人にさせとくのはもったいないだろうが」
「な、何言ってっ!?」
 さっと赤面したであろう頬を手で抑える。
 どうしようどうしよう。凄く、嬉しい。
「で、こんなイイ男も誘わないと損だぜ?」
 片目を一瞬器用に瞑って笑う。 
「貴方って人は…まったく…ありがとう」
 私も釣られて笑ってしまう。
「ほれ、ちったぁクリスマスを過ごす2人っぽくするぞ」
「え、え?!」
 ぐいっと右手を引かれてそのままソファに座るランサーの上に倒れ込む。
 あまりにも自然な動作で、一瞬何が起きたのか。
「ら、ラン…っんん…」
 口の中に進入したランサーの舌が、歯列をなぞる。
 不意打ちの深い深いキス。
 私の力が抜けたのを見計らったかのように、唇が離される。ぺろりと私の唇をひと舐め。ランサーはにっと笑って。
 
「メリークリスマス、バゼット」
 
 かちりと。
 時計の針が24時の時間を告げた。
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩
「強く、7題」 配布元【空詩
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 逃げるなんて冗談じゃない
2005/12/30
逃げるなんて冗談じゃない
 数キロ先、かすかにその全貌を見せるのは古びた塔の先。そしてここからでも感じ取れる大気中のマナの巨大な乱れ。
「これはまぁなんってーか、頑張りすぎじゃねえか」
 ソレをやはり同じく感じているであろう全身青躯の彼は、片手に握る真紅の槍を、肩たたき替わりのように上下に揺らしている。表情はほんのり楽しそうで。
 私は右手に皮手袋を通しながら、つい言ってしまう。
「こんな時に笑うのは不謹慎ですよランサー」
 そう言ったにも関わらず彼は私に顔を向け、にっと深く笑う。
 しかも私の頬をぐにっとつまんで来た。
 
「な・・・・っ!?」
「そういうお前は何でニヤけてるんだろうなー。オレの気のせいかぁ?」
「わ た し のどこがニヤけているんでしょう?」
 私の頬をつまんでいるランサーの腕を触り、つねられたまま笑顔で答える。ついでにその腕を思い切り握り締める。
 彼はすぐに顔をしかめ、
「いやもう今全開で笑ってるじゃねぇk・・・」
 ギリギリ。
 ぱっと頬をつねっていた指が離れる。
「うんあれだな、正直オレが悪かった」
 お互い目を合わせて、どちらともなく吹き出してしまう。
 
「ほら、行こうぜマスター。オレ達が在る場所にさ。
 それともこのまま放置しとくか?」
 そうイタズラッ子のように問いかけて。
 
『逃げるなんて冗談じゃない』
 お互いの声が同時に被る。
 
「だろ?」
「当たり前です」
 
 さあ、私達が在る戦場へ、私達が在る場所へ。
 貴方と一緒に駆け抜けよう。
 それが、
 
 
 私の永遠の誓い。
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 後悔したって手遅れ、そうでしょ?
2006/1/6
後悔したって手遅れ、そうでしょ?
それは、なんとなく呟いた一言だった。
「そーゆーの着る様になったんだな」
 視線でバゼットの深いワインレッドのスーツに目をやる。
 スーツ自体は過去となんらかわりはしないけれど。
 
「これですか」
 ぴらと、バゼットは無造作にスカートの端を手に持つ。
 スリットの入っているスカートから、無防備に覗く白い腿が露になる。
 
 おいおい誘ってるのかよ、と一瞬考えるも、相手がこれっぽっちも意識していない事、無条件で自分を信頼している事が分かってしまっていたので、手なんて出せる状況でなかった。
 全体的に艶っぽくなったバゼットを前に、やたらと葛藤する自分。そんな苦悩もいざ知らず、バゼットはなんと答えるか少し悩み、
 
「心境の変化です。おかしいですか?」
 肩にかかった髪を後ろに払いながら、なぜかふわりと笑った。
 
『私たちは勝てるでしょうか?』
 
 目の前の女の姿が、今のしぐさとは全く違うはずなのに、4年前とだぶる。
 そして、少しばかり残念な感情に気が付いて苦笑い。
 クーフーリンとあろう者が、過去の事を残念がっている。
 なんて滑稽。
 しかし、この女の過ごしてきた4年間を思うと、惜しくて仕方なかった。自分が見ていなかった時間、この女はどれほどここまで来るのに磨かれたのだろう。
 それ程、今のバゼットは魅力的だった。
 
「ランサー?・・・クーフーリン?」
 反応のない自分を疑問に思ったのか、バゼットがオレの頬に手を伸ばす。
 
 今、俺に触れるな。思考はそう思った。けれどその手をそのまま絡めとって、俺はバゼットを背後から抱きしめる。
「・・・・っ」
 その均整の取れた肢体の感触に、酔う。
 その惹かれてやまない心に酔う。
 
 まるで自分と同じような長さの髪に口付けを落とす。
 それが離れていた時間を示すようで。
 無意識に伸びた腕は、スリットをかき分けて腿に指を這わせる。
 びくりと身体を反応させたバゼットは、1つ深呼吸。それから身体の力を抜き、背後の俺に伸ばされた腕。---優しく俺の髪をなぜる。
 
「・・・4年前の出来事がなければ、私はきっとずっと臆病で、変われないままだったかも知れない」
 俺に向けた言葉なのか、自分自身に向けた言葉なのか、呟く。
 
「世界がこんなにも広くて、色々な生活があって価値観があって、悲しいことがあって嬉しいことがあるなんて、今まで逃げてきた自分には知らないことばかりだった。・・・あなたやアンリや士郎君や・・・コトミネに会えて良かった」
 身体をひねり、俺に顔を向けたバゼットは本当に嬉しそうに微笑んだ。
 悩んだこと、傷ついたこと、全てを成長の糧にして。
 宝石の原石は美しく研磨され。
 
「色々あったけれど、こうしてまた貴方を呼べた」
 それが一番嬉しい、とバゼットは囁く。
 それは俺を絡め取る言葉。
 
「・・・いい女になりすぎ」
 囚われっぱなしの自分の気持ちに向けて悔し紛れに一言。
 
「おや、それは光栄」
 楽しそうにそう返してきたバゼットの言葉に、負けたなぁとなぜか思ったのは、絶対に本人には言うまい。
 
 とりあえずはこの目の前にある、俺を絡め取る言葉を紡ぐ唇を、どうやって塞ぐかに専念しようじゃないか。
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 私の幸せは私が決める
2006/1/14
私の幸せは私が決める
「では、もう行きます」
 多くの未練がましい言葉も、涙も、私達にはいらなかった。
 

     □

  
「ぇええ! 故郷に帰るって!?」
 士郎君はかなり驚いたのか、声のボリュームがとても大きく居間に響いた。
「はい。色々考えたのですが、久々に帰省してみようかと」
 切り出した内容に自分自身頷きつつ、返事をする。
「別にここにいるのが嫌になったわけじゃないよな?」
 士郎君は私の目をしっかりと見据えながら「俺は迷惑とかしてないからずっといても構わないんだぞ?」と、士郎君らしい暖かい言葉が添えられる。
「ご好意感謝します士郎君。決してここにいるのが嫌になったワケではありません。しかし、今までの出来事を落ち着いて整理してみたいので・・・」
 聖杯戦争での事。自分自身の事。今なら落ち着いて整理できそうで。自分の原点に戻って考えてみたいと思った。
 
 しばらくお互いに沈黙。

 その沈黙を壊すように、士郎君が息を吐き出した。
「・・・そうか。バゼットがそこまで真剣に考えてるなら、帰ったほうがいい。思いつめてたり落ち込んでたりしていたら止める所だったんだけど」
 沈黙と私の表情から何かを読み取ったのか、士郎君は笑顔になった。
「本当にありがとう、士郎君」
 私もつられて笑みを浮かべる。
 
「でもさ、パスポートとかどうするワケ?」
 素朴な疑問を口に出した士郎君に、予想していた答えを返す。
「協会側の協力がなくとも、私にも多少のツテがあります。凛も口ぞえをしてくれるようですし、大丈夫です」
 最初は中々打ち解けてくれなかった凛も、最近はよく話すようになった。なんとなく、ウマが合うと言うのだろうか。あの前向きな性格には救われる。時々その勢いに乗せられてヒドイ目にもあったりはしましたが。
 
「じゃ、とりあえずは問題なく帰れるんだ」
 ふと、士郎君の表情が曇る。
 
「士郎君?」
「あー、あのさ、差し支えなければでいいんだけど」
「はい?」
「・・・・カレンとランサーにはもう話した?」
 息を吸い込んで、私は上手く言えただろうか。
 
「出立の日に、教会に行きます」
 

     □

 
 
 大分修繕されてきた教会の床に、コツコツと自分の足音が鳴る。
 頭上を見上げれば、陽光を浴びるステンドグラス。朝の光がゆっくりと差し込んでくる。
 ここは大して『あの時』と変わっていない。彼を思い出してしまう場所。そして彼を彷彿とさせる人がいる場所。
 けれど、今はそれを思い返しても心は乱れない。
 
「あら、何も言わずに出て行くのかと思っていたのに」
 カツンと、2種類の靴の音を響かせて、教会の奥から出てきたのは。
 
「ランサー・・・、カレン・・・」
 
 視線を戻した先には、私を見つめる黄金の瞳と真紅の瞳。
「帰省するんですってね?」
 カレンは私の目の前まで来ると、左腕に視線をやり残念そうに息を吐く。
 ランサーはカレンの背後でピタリと立ち止まった。私の行動をただ、ひたと見据えるように。
「ええ、今日発ちます」
 きっぱりと放つ言葉。迷いはない。私自身を成長させるために私は帰るのだ。
 視線は彼に。
 カレンはしばらく私の左腕を見つめ続け、ふいに顔を上げる。
 そして微笑む。いつもの何か企んでいるような笑顔ではなくて、それは柔らかい微笑み。けれど、出てきた言葉はいつもの通り。
「餞別にコレを貸してあげようと思ったんだけど、その必要はないみたいね」
ランサーに振り返り、すぐに私に視線を戻す。そして「残念」と、カレンが特に感慨もなく呟く。
 
 【貸す】と言う言葉にピクリと反応してしまった私は、つい言い返してしまう。
「今しばらくランサーを貴女に預けておくだけです。必ず返してもらいますから」
「じゃ、その時はその左腕はくださいね」
「それとこれとは別でしょう」
 お互いにっこりと笑顔を交わす。お互いに譲れない。
 ふと、腕時計に目をやれば、出立の時刻が迫っていた。
「そろそろ時間なので行きます。カレン、一応礼を言っておきます。あの時、助けてくれてありがとうございました」
 きょとん、とカレンが目を瞬かせる。
「・・・素直なあなたはやりにくいわね。気にしないで、当然の事をしただけです」
 そう言って、くるりと背を向けて祭壇前に歩き出す。
 
「カレン?」
「主が貴女をお守りくださいますよう、一応祈っておいてあげるわ」
 早く行っちゃいなさいよ、と祭壇前に跪いて祈りだす彼女から聞こえてくるようで。
 本当に祈ってくれている事も伝わってくるので嬉しくて顔が緩む。
 
 そして今まで一言も発さなかった彼にきちんと向き直って。
「ランサー」
「おう」
 いつもと変わらない自然な態度。じっと私の顔を見つめてくる。
 
「行って来ます」
 にこ、と自分にしては普通に笑えたつもり。
「ああ、行って来い」
 にっと、ランサーも笑い返してくれる。
 全て、分かってくれている広い心。
 
 
 この身ひとつで、私は行きます。
 私が、私を許す為に。
 私が、私を知る為に。
 私が、私を幸せにする為に。
 
 
「では、もう行きます」
 多くの未練がましい言葉も、涙も、私達にはいらなかった。
 私は2人に背を向けて、教会を後にする。
 
 この身ひとつで、私は出かけよう。
 私自身の世界を広げる為に。
 そしてまたいつか、貴方と一緒に。
 
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 全部終わったら殴らせなさい
2006/1/20
全部終わったら殴らせなさい
あてんしょーん
 
「全部終わったら殴らせなさい」はWEB拍手で公開していた小ネタの続きです。
ぶっちゃけ話も何もあったもんじゃないイチャイチャ温泉ネタ。
大丈夫な方は読んでください。
うちが普段書くものと変わらないジャンとか言わないでっ(ノ∀`)
 まどろみに飲まれて私は暖かな気分にたゆたっていた。
 時々ぼんやりと思考が戻ったり、髪を優しくかきわけて、誰かが頭部をなでてくれたりする錯覚。それは子供時代ほしくてほしくて、けれど臆病で無関心な振りをしていた私には与えられなかったもの。嬉しくて、心がほわほわと温かくなる。
 
 ずっとこのままいられればいいのに。
 また優しく髪をかき分けられる。気持ちよくて、その撫でてくれている「何か」にそっと手を伸ばす。ゴツゴツとした大きな・・・伸ばした先、きゅっと指を掴まれる。
 
「・・・起きたか?」
 耳元で響く呟きに、ぼんやりと思考が戻ってくる。
 
「ん・・・ぁ・・・ラン、サ・・・?」
 はっきりしない思考で、ただぼんやりと声の主を見上げる。
 ピションッブラッドの瞳が細められて、私を見つめる。
 
「湯あたりしてぶっ倒れたの覚えてるか?」
「・・・・湯あたり・・・」
 子供のように言葉を繰り返して。
 
 一気に思考が開けた。
「・・・!?」
 そして自分が思い切り彼に抱きしめられている事にも気付いてしまった。慌てて退こうとして、咄嗟に身体に力を入れる。
「あれ・・・?」
 けれど、起きあがろうとして力が入らない。そしてランサーに抱えられていた足が、滑って地面に・・・・つかずに、ぽちゃんとお湯に浸かった。
「え?」
 
「湯あたりしてるんだから無理に起きあがるなよ」
 笑いながら、ランサーが片手でなんなく私を抱き込み直してしまう。
 こてっと、情けない事に再びランサーの胸に倒れ込んでしまう。
「・・・・っっ」
 浴衣姿の逞しい胸に縋り付くような形になってしまい、恥ずかしくて視線を逸らせば、そこは先ほどまで浸かっていた温泉だった。
 すでに深夜を回っているのか、空を見上げれば月がとても高い位置にある。
 ランサーは私を抱きかかえるようにして、岩場に腰をかけて座っている状態だった。足だけお湯に付け、片手にはいつのまにか小さな白い陶器の入れ物を持ち、嬉しそうにそれをあおっている。
  
「私は・・・倒れたのですね」
「ん? あぁ」
 倒れる直前、伸びてきた腕だけが思い出せる。
 そして一番肝心な事に行き着く。
 
「・・・・・・・・」
 言葉が出ない。絶句するとはこういう事を言うのだろう。
「どうしたバゼット?」
 わなわなと震える私を不審に思ったのか、ランサーが声をかける。
 しかし私は返事を返す余裕などこれっぽっちもなく。
 
「ららららら、らんさーっっ!」
「なんだよ」
 
「わ、私はいつの間に・・・浴衣を着ているんでしょう・・・・」
 語尾はもうなんというか、力なく小さな声になってしまう。
 そう、私はいつの間にか、浴衣を羽織っていた。これ一枚しかまとっていない事に、頼りなさを感じて泣きそうだった。
 にっと、ランサーが待っていましたとばかりに笑う。
「そりゃもちろん、ぶっ倒れたお前を助けたオレ位しか着せる人間はいないと思わないか?」
 いやー、役得だったぜ〜と悪びれもなく言っているこの男に、今こそフラガラックを打ち込みたいと切実に思った。
 
「・・・・離して」
「駄目だ」
 ぶっきらぼうに呟いた言葉はあっさりとランサーに遮られる。
 そして私を更に引き寄せて呟く。
「目が覚めるまで待ってただけありがたく思えよ」
 
「え? っ・・・ッ!」
 突然私の胸元に埋められるランサーの顔。全身が震えるような衝撃と、ちくりと唇を押し当てられた感触。
 それが数度、繰り返される。
「・・・・・!んぅ・・・・っ」
 まるで他人の身体のようにいう事は聞かず、与えられる感情に震える。
 自分とは思えない甘い声に、羞恥と共に口を手で押さえる。
「イイ声」
 私の胸元から、上目遣いに見上げてきた彼の視線とかち合って逸らせなくなる。
 
「なぜ・・・?」
 生理的に零れそうになる涙を我慢して、ランサーに問いかける。
 やれやれとランサーは笑って。
「オレも一応健全な男なんだよ。好きな女を抱きしめてるだけで我慢出来るほど不能じゃねぇぞ」
 どっかの弓兵は我慢しそうだがなーと付け加えて。
 私はランサーが口にした『好きな女』の響きに一瞬思考を奪われて。
 いつの間にか迫るランサーの顔に、不覚にも流された。
 
 
 
 ・・・とりあえず、後で一発殴らせなさい。
 思いっきりグーの拳でっっ。
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 泣く前に笑え
2006/2/11
泣く前に笑え
image song MEGARYU「メガヘルツ」
 いつかは届く。まだ孤独なアイツへと辿り着く。
 片手を空へと伸ばして。(心は両手を空へと伸ばすイメージで)
 
 思う、想う。
 
 今はもう会えない彼らの事を。
 挫けそうになった時、彼らはいつも私の傍にいる。
 決して会えることはないけれど。
 
 心はいつでも届くと信じてる。
 想いは辿り着くと信じてる。
 ここから前に進みだす力を貰っている。
「アヴェンジャー、ランサー。私、頑張りますから」
 どん底でも、笑え。
 無我夢中で情けない、けれどただひたすらに前に進む。
 
 
『そんな女だから』
 
 心打たれる。胸打たれる。
 遙か彼方で想う。
 共に笑い合える人間に彼女がいつか出会う日を。
 いつかは届く。
 
 まだ孤独なアイツへと辿り着く。
  
 どん底でも、笑え。
 そこから這い上がって強くなれ。
 無我夢中で情けない、けれどただひたすらに前に。
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 迷う背中を蹴り飛ばすから
2006/2/13
迷う背中を蹴り飛ばすから
 ガチャコン。ガシャガシャ。
 ガシャッ。
 ガゴゴゴン。
「痛っ!」
 
 本日、壊滅的な音が衛宮邸のキッチンから鳴り響いていた。
「あーなんていうか」
 額に片手を当てて、凛は頭が痛そうに顔をしかめてみせる。
「姉さんの言いたいこと、わかります・・・・」
 困った顔で桜があはははと力なく笑う。
 
「サクラ、リン。・・・・あれは調理していると言うのでしょうか」
 生クリームを泡立てながら、ライダーは音の元凶先に軽く視線を流し、すぐに2人に視線を戻す。
「わたし達に聞かないでちょうだい。こっちが聞きたいわよ」
 むぅと、凛も戦闘中調理中のバゼットに視線を流す。スーツにエプロンと、なんともキッチンには不似合いの格好で、必死にまな板をチョコレートを刻んでいるバゼット。
「バゼットさんて、なんでも出来そうに見えるんですけど・・・なんというか不器用ですよねー」
 バコーンと、脇にあった牛乳パックに腕が当たり、中身を散乱させてパックが床に落ちる。ふと床に視線をやれば、牛乳パックと同じ末路をたどった食材や調理器具、はたまた皿が散乱していた。
『・・・・・・・・・・・・・・』
 凛と桜とライダーはおそらく同じ気持ちで視線を交わしあい、声なき溜息をついた。

 そしてこちら衛宮邸居間。
 激しく不安そうな顔の士郎と、苦虫を噛み潰したような表情でコタツにいるランサー、わくわくしながらコタツでせんべいをかじっているセイバーが向かい合っていた。
「なぁ坊主。激しく嫌な感じがひしひしと伝わって来るんだが・・・消えてもいいか」
「いや、いてくれ。というかむしろいないとヤバイだろ」
 ひっそりと交わされる言葉。
「? 2人とも何を恐れているのです。手作りチョコレート最高ではないですか!」
 セイバーは目をきらきらと輝かせて、もうすぐ出来上がるであろうチョコレート菓子に想いを馳せる。
 おそらく今日が「何の日」かも気付いていないだろう。
「台所から聞こえてくる異音がなけりゃそりゃ俺だって嬉しいんだがな・・・」
 ぼそっと、ランサーが呟く。
「あー同感」
 後片付けはきっと自分なんだろうなぁと、士郎はガックリと頭を垂れる。が、ふとランサーに視線をやり、 
「とりあえず、頑張れ。とにかく頑張れ。てか 頑 張 っ て く れ
 衛宮邸の安否はお前にかかっているんだランサー!とばかりに力強く。
「オイオイ、マジ勘弁してくれー・・・」
 
 
「じゃ焼くものは以上で、残りは冷蔵庫に入れて固まるまで待ちましょ」
 ふーっと、凛が疲れた顔で、しかし満足そうに皆に声をかける。
「はい、姉さん」
「了解ですリン」
「・・・・・・・・・」
「バゼット・・・・?」
 一心にオーブンの中をバゼットは見つめていた。
 桜がくすりと笑みを零す。
「バゼットさんてかわいいですよね〜♪」
 凛も微笑ましそうにバゼットを見つめる。
「そうね。今のバゼットを見てると年上だとは思えないわ」
「まるでときめく女子中学生の様、とでもいいますか」
「わ、ライダーそれすごいイイ例えっ」
 バゼットを横に話が盛り上がっていたが、当の本人は全く気が付かず、やはりオーブンに視線を釘付けたままだった。ほんのりと穏やかな笑顔を時々浮かべて。

 

「はい、完成ですっ! お疲れ様でしたっ」
 にっこりと、桜がラッピングされたチョコレートをバゼットに渡す。
「えと、お、お疲れ様でした」
 不自然にそれを受け取り、バゼットは困ったように3人に視線を回す。
「凛、桜、ライダー。その、足を引っ張ってしまいすみませんでした」
「気にしない気にしない」
 ぱたぱたと片手を左右に振って笑う凛と、
「そうですよ〜気にしない。とってもいいものも見れましたし」
 両手を後ろに組んでにっこりと桜が笑い、
「なかなか有意義な時間でした」
 眼鏡をすっと上げたライダーが穏やかに微笑んだ。
「3人とも、本当にありがとう」
 バゼットも安心したように笑顔を見せる。
「で、それはやっぱり居間にいる誰かさんによね」
 それはそれは楽しそうに凛がバゼットに問いかける。
「・・・っ!?」
「愚問じゃないですか姉さん。ね、ライダー?」
「そうですね。それ以外ありえないでしょう」
「いえあの、その、ですねっこれはっ!」

 

『いいから渡してきなさい』


 同時に被った3人の声は、まるで背中を蹴り飛ばされたような衝撃。
「・・・あぅぅぅ」
 押されるように出た居間には、なぜか少し端に避けている士郎とセイバー。そして・・・

「ランサー・・・・」
 バゼットはランサーの名前を呟いて。
 居心地悪そうにコタツに座っているランサーで視線は止まってしまう。
「・・・よう」
 片手を上げて挨拶をしたランサーはそのまま黙ってバゼットを見つめる。
「こ、これ」
 頬を染めて、必死にラッピングされたチョコレートをバゼットは差し出した。
 瞳を閉じてバゼットは待つ。

「ありがとよ」
 すっとランサーがバゼットの手からチョコレートを受け取る。ぱっと瞳を開いたバゼットが、頬を更に染めてしゃべりだす。
「も、もちろん義理ですからっ・・・っ!」
 全く説得力のない言葉を紡いで、あわわわと両手で頬を押さえる。
 ぶっと、ランサーは吹き出して手を伸ばしてぐしゃぐしゃとバゼットの髪をかき回す。
「ちょ、何するのランサーっ」
「オレ流の愛情表現だ気にするな」
 避けていた士郎がほっとしたように笑顔を浮かべる。台所から成り行きを見守っていた3人も思わずガッツポーズ。セイバーもにっこりと微笑んだ。

 

余談、その後衛宮邸は崩壊せず、けれどサーヴァントであるランサーがしばらくチョコ嫌いになったのは激しくフラガさんには秘密となるのでした。
ちゃんちゃん★
 
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 醒めない夢ならいらないのです
2006/6/9
醒めない夢ならいらないのです
--ほら、起きろよバゼット。
 
 誰かがそう、私の耳元で囁いた。
 でも まだ 眠っていたいの。
 今とても見ていたい夢があったの。
 もう少し。もう少し。もう少し。
 
--じゃ、ずっと寝てるか?
 
 あきれた声。無関心な声。
 気まぐれな猫がほんの少しの興味さえ失ったかのよう。
 待って、だって本当にあとちょっと。
 
--それでいいんだな?
 
 きっと最終宣告。私は確信する。
 
 そして、このままでいたらきっと私はこの変化のない場所で
 貴方に会うこともなく
 近づく事もなく
 ただ永遠に
 存在すら
 危うい
 夢に
 夢
 
 
 
 
 目が覚める。薄暗い室内。寝ていたと思われるソファから起き上がり、周りを見る。
 廃墟だ。
 高く昇った月の光が窓から差し込んで、今が深夜だと気が付く。
 とても悲しくて嬉しくて悔しくて優しくて焦がれて寂しくて、喜怒哀楽全てごちゃまぜの感情が押し寄せてくる。
 思わず壁に拳を叩きつけると、壁に亀裂がピシと入った。
 無音の世界にようやくパラパラと粉の舞う音。
「此処に貴方達は、いない」
 ずるずると壁に拳を押し当てたまましゃがみこむ。
「いない」
 けれど。
「此処は私が生きる場所」
 貴方たちの分まで、生き汚く生きてやる世界。
 
 ねえだからもう

 醒めない夢なら いらない。
 

 私は生きていく。歩いてく。
 自慢できるくらいに、未来を勝ち取ってやるから。
 
> お題以外のランバゼ作品
お題以外のランバゼ作品
 
> お題以外のランバゼ作品 > バゼットさんスケートをする
2006/2/22
バゼットさんスケートをする
 なんとなく見たTVには、速く、高く、そしてスローモーションのように着氷するスケーターの姿。 何かの大会だったのだろうか、会心の笑みを浮かべた女性はとても綺麗だと思った。 いつもはそんな事気にも留めないけれど、純粋に美しいと。
 ただ一つの目標に、そしてたった数分の戦いに、ここまで純粋に挑めるのか、と。
 
 私の戦いはただ生き残るために、自分の弱さを隠すための鎧だ。その純粋さにだからこそ私は憧れる。
 
「ランサー」
「---あー、何だ?」
 ソファーで身体を伸ばして雑誌を読んでいたランサーが顔を上げる。
「少し出かけてきます」
「んなら付いてくぜ」
 少し考えて、私は頷いた。
 
 
*****
 
 
 思い切り氷の上を走って走って、見よう見まねで飛んでみる。
 エッジを使ってイン、アウト。
 これは・・以外に楽しいかもしれない。
 TVの中の女性のように、優雅になんて滑れはしないけれど、加速を付けて敵を蹴り上げるように踏み切る!
 
「・・・・おー、てかあっさりダブルアクセルかよ」
 全くのでたらめさに、なんとなく付いてきたランサーは氷上に座り込み笑いを堪える。 でたらめといえばバゼット自身もそうだが、ここがスケートリンクですらない事もでたらめだ。ルーンで湖の一部を凍結させてしまっている。もちろんランサー自身も手伝った。

 バゼットを見る。技術も優雅さも全くない滑りではあるが、いつも以上に自由に動いている彼女を見て。
「バゼットらしくていいんじゃね」
 力強く、真っ直ぐ。
 なぜ突然スケートなのか、いまいち理解はしていないが。
「こんな日もアリだよな」
 バゼットを見やりつつ、目を細めてランサーは呟いた。
 
> お題以外のランバゼ作品 > 温泉ネタ
温泉ネタ
「そっち行ってもいいかー?」
 ランサーの声が夜空に木霊して私に届く。
 それは良いでしょう、それは。
 
 それよりも。
 
「来たら絶対殴りますいえむしろ全ての力を出し切って排除しますっ!!」
 自分でも何を言ってるのかワケが分からないまま息継ぎナシで喋る。
 こんな目にあっている原因、混浴露天風呂というものを理解せずに入った自分が憎い!
 そしてなぜ貴方が来るんですか!

「まぁいいけどよ。そろそろ30分以上経つが平気か?」
「こ、こっちを見ながら話さないっっ!! だ、大丈夫です!」
 貴方がそこにいるから動けないとは、なにやら恥ずかしくて言えない・・・。
 そしていい加減頭に血が上ってくらくらしてきた。私としたことがこれしきで・・・っ。
「・・・っ」

「ったく」
 ザバリと水の動く音。
 そして朦朧としてきた意識。
 けれど、でもでも!

 こ、来ないで〜!!

 迫り来る人影と、霞む視界とまとまらない思考。
 伸びて来た力強い腕は、見間違いなどではなく。

 私はこの時間から逃げるため、霞む意識を手放した。

 
> お題以外のランバゼ作品 > レイン・ツリー
2007/1/15
レイン・ツリー
「レインツリーか」
 ランサーはふと窓辺に視線をやり、何とはなしに呟いた。
 彼らが潜む屋敷の庭にどっしりと一本茂るのは合歓ねむの木。それをランサーは『レインツリー』と呼んだ。

「レインツリー・・・?」
「ほら、見てみろよ」
 少しだけ興味の沸いたバゼットは、ランサーの言葉に釣られて視線を向ける。その風景はいたくバゼットの乙女心にヒットしたらしい。珍しく相好を崩してその風景を見つめた。
 太陽の光に照らされた合歓の木は、やさしい小雨のように水を滴らせていた。
 
「まるで生命の滴ですね・・・・・・・っい、今のは聞き流して下さい!」
 発言した後、はっと素に返ったバゼットが慌てたように頬を染めて訂正する。それから「でもなぜこの快晴の中雨を降らすのだろう」と呟いた。
「葉が日の陰りで閉じたり開いたりするみてーだから、雨がやんだ後も水が滴るんだろ」
「なるほど。だからレインツリーですか」
「お前みたいだな」
 そう言って、くっとランサーにしては控えめに笑う。
 
 表面は鉄壁の鎧を纏っているけれど、臆病で本当はあの木の葉のように自分の感情をたたんでしまう女。それを意識的に見ない振りをしている弱い人間・・・だが。

 むっとバゼットがランサーに詰め寄る。
「なんですかその言い様は。私が弱音を吐いて泣くような人間に見えるのですか!」
 なんて分かりやすい。彼女の様子についに我慢し切れなくなったのか大声でランサーは笑った。
「おもしれぇなぁウチのマスターは!」
 わしわしとランサーに頭を撫でられて、益々バゼットの怒りが爆発する。
「ら・ん・さ〜!」
 
   *

 ふと過去を思い出し、ああこの木の前にいるからだなとバゼットは微笑んだ。
 目の前、見上げればそこには大きな合歓の木。
 さぁと風がバゼットと合歓の木の間を吹き抜けていく。片腕の袖がそれに合わせてゆらゆらとはためく。
 
 だが、バゼットはこの木のように安らげる存在なのだ。
 一本の木のように、本当はしっかりと伸び伸びと成長できる女なのだ。そう、バゼット自身が言った『生命の滴』のような。早く気がつけよなあバゼット。

 
合歓の木はまるでランサーの代弁とばかりに、陽光煌めきながら優しく、優しく、彼女の上に滴を降らせた。
 
NiconicoPHP