空の雲を手で掴むには
 努力だけでは超えられない場面がある。
 それがもしかしたら今の状況か。いや確実にそんな状況だったりする。
「どーしたバゼット? 怖気づいたのか?」
 広がるよく晴れた青空と、後方に広がる青い海と、アロハシャツのやたらと似合う、ニヤニヤとガキ大将の様に笑う青いサーヴァント。
 私との身長差をいいことに、頭上から楽しそうに眺められている。
「なんなら変わってやるぜ?」
 すっとランサーの左腕が動こうとする。
 それを慌てて静止させる。
「ま、待ちなさい! 余計なお世話だランサー…っ!」
「あ、そ」
 あっさりとランサーは引き下がり、またニヤっと笑う。
 2,3発殴り飛ばしたい衝動を堪えて、顔を上げてランサーを睨む。
 
 怒鳴ってはみたものの、この局面を切り抜ける行動が私は起こせない。まるで広がる空の雲を掴むに等しい行為。どんなに努力しても掴めはしないと考えてしまう程。
 たとえ近づけても、いざ触れたらすり抜けてしまうのではないかと。余計な考えがぐるぐるぐるぐると頭に巡る。
 
「あー、時間かかるなら釣り再開すっけど?」
「…っ」
 考えているうちに少し時間が経ってしまったようだ。ランサーが後方の定位置に戻ろうと背を向けて…
「行ってはだめだっ…」
 無我夢中で、ランサーの肩を鷲掴んで振り向かせる。
 
(あ、すり抜けない)
 掴んだ瞬間、馬鹿みたいにそんな事を考えた。
 くっ、とランサーは堪えるように笑って、
「お前にしてはよく頑張った」
 
 そのまま大きな両手に引き寄せられて。
 そのまま包み込まれるようにキスされた。
 
「…っ!」
 頬に熱が集まるのを押さえ切れない。
 しかもなぜだか目頭までも熱い。
 
「なに、涙ぐむほど良かったかよ?」
 今まで私に触れていた唇が、そんな言葉を紡ぎだす。
 口から上の表情を見る勇気がない。
 が、いつも通りの口ぶりに、ヤツがどんな表情をしているかは察せられた。
 
----黙れバカランサーーーっ!
 かなり本気の拳を、間近で悠々とランサーは受け止めて。
「じゃ、遠慮なく黙らせていただきましょうかねっと」
 無理矢理合わせられた視線は楽しそうな光をたたえるピションブラッド。そして再び触れるランサーの体温。
 
 空の雲を掴みたいならば。
 ほんの少しの思い切りと。
 空をも掴む心意気。
  
  
  
 
 

 
 
 
 
 
「…なんで私はランサーにキスする事になっているのでしょう…っっ」
 
「深いことは気にすんな」
 
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2005/12/14
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