屈み込んで
「なあバゼット。封印指定ってヤツに指定されたんだろ?
 いいわけ、こんな敵のすぐ近くに住んでよ」
 ジャーキーを口に加えつつ、ランサーは言った。
 ヨレヨレのTシャツを身に付け、これまたヨレヨレのリーバイスのパンツを穿きこなしている、ヤンキー座りでバゼットを見上げる男。
 現在いる家にはソファや椅子があるにも関わらずヤンキー座り。
 やたらとその格好がしっくりしていて、それが彼女には少々眩しかった。
 
 しかし、世界中の異端や奇跡の結晶、知る者なら誰でも手にしたいと思う力。…には到底見えない。そんな感想を抱きつつ、バゼットは思っている事を口に出した。
 
「私は現在は協会に属していませんし、公式上、死んだことになってます。フリーの私がとやかく言われる筋合いはないでしょう。それに隠れるなんて性に合わない」
 来るものは遠慮せず倒しますよ?
 それを聞いてか、あーやっぱりなーとランサーは呟く。
「確かにそうだな。お前らしいぜ。まあ、協会の連中が襲ってきても余裕っつーか。封印指定受けたのもオレがいるからだろうし、手助けするぜ?」
 
「・・・私は守られるような女ではありません。知っているでしょう?」
 ---うっすらと笑って皮手袋に手を通すバゼット。
「げ。おぃちょっと待てバゼット! なんで拳をオレに向けるんだよ!?」
「なんとなく、でしょうか?」
 小首を少し、バゼットはかしげる。
 その姿はなんだか可愛い。可愛いのだが。
 なにやら彼女の地雷を踏んでしまったランサーは。
 
「カレンみたいな事言うな! うわ、お前なんでさらに機嫌悪くしてるんだ! まてまて話せばわかるっっ」
 更に地雷を踏んづけた模様だった。
 
 両手を合わせて、屈みこんでこちらを見上げてくるランサーを見ていたら。
 無性に嗜虐心が湧いたというか、なんというか。
 
 ---本当は違うのだけれども。
 
『オレがいるからだろうし』

 ---違う。貴方は私の我侭で呼び出したから。
 
 バゼットはごまかすように感情から目を背ける。
 いつもは見上げていた姿が今は下に。
 にっこり笑ってバゼットが構えを取る。
 
「おそらく話しても無意味かと」
 
 ---カレンの話を出す貴方がいけない。うんそう。きっとそうです。
 
「マジかよ!」
「本気です」
 その数十秒後。ランサーの盛大な叫びが聞こえたとか聞こえないとか。
 それはランサーの名誉のため、あえて語らずにおこう。
 
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 屈み込んで
2005/12/22
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