夢の中の住人は君に
「…っ。すみませんランサー。少し時間を稼いで下さい」
 そう言って瞳を閉じたスーツ姿の女は、何の警戒もなくオレの腕の中に崩れこんだ。
「おいおいおい。いきなりこれか」
 こっちは召喚されたばっかりで、まだ状況も把握してねーぞ。
 ただ、この女を捨ててどこかに行こうとは思わなかった。女子供は殺さない、見捨てない主義だ。
「それでいい女だったら余計に見捨てられねぇな」
 腕の中にいる女を眺める。
 28〜30歳辺りだろうか、整った顔立ち、均整の取れた身体、無防備に閉じられた瞳。スーツを着こんでいるため女性らしい優美さこそないが、着飾らなくとも感嘆する美しさ。そして感じる半端じゃない魔力量。
 瞳を閉じている姿はえらくオレの欲情をそそった。
 そしてふと目についた。耳に付いているその、
  
 
「……バゼット…?」
 
  
 声に出してもまだ自分の言葉を疑う。
 なんでおまえが。
 
「夢か?これ」
 英霊は夢なんか見ないハズなんだが。
 見ているのはそもそもいくつもある世界に召喚されたオレの記憶。
 そしてそれは「オレ」まで届かず記憶は消去されるハズ。
 が、考える事はそこで止めざるをえなかった。
 
 感じる複数の人間の気配。それは消そうとしても出ている殺気。
「三流っぽいのばっかりな気配だな。ま、バゼットが起きるまでのヒマつぶしか」
 
 すでに手に握られた赤い槍。見慣れた相棒。
 
「ラン、サー…」
 思い出した聞きなれた声が、無意識なのか言葉を落とす。
 瞳は閉じられたまま。
 
 まぁなんだ。これが夢でも現実でもなんでもいい。
 少しどころかいくらでも時間は稼いでやるから。
 
「ちゃんとオレを見ろよ」
 目を開いた時、最初に視界に入ってきたのは。
 祈るように願うようにこちらを見つめる揺らいだ赤茶の瞳。
 
 本当に夢じゃないのかと疑いたくなるから。
 
 
----意識を失った私に確かに聞こえた想い(こえ)。
   早く目よ覚めなさい。これが夢の言葉ではないと確信を持つために。
 
 
「んじゃ、サクっと片付けるかね」
 オレはそろそろ射程内に入る敵達に向けて、すっと槍を突き出した。
「定番だが死にたいやつから来い」
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2005/12/21
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