レイン・ツリー
「レインツリーか」
 ランサーはふと窓辺に視線をやり、何とはなしに呟いた。
 彼らが潜む屋敷の庭にどっしりと一本茂るのは合歓ねむの木。それをランサーは『レインツリー』と呼んだ。

「レインツリー・・・?」
「ほら、見てみろよ」
 少しだけ興味の沸いたバゼットは、ランサーの言葉に釣られて視線を向ける。その風景はいたくバゼットの乙女心にヒットしたらしい。珍しく相好を崩してその風景を見つめた。
 太陽の光に照らされた合歓の木は、やさしい小雨のように水を滴らせていた。
 
「まるで生命の滴ですね・・・・・・・っい、今のは聞き流して下さい!」
 発言した後、はっと素に返ったバゼットが慌てたように頬を染めて訂正する。それから「でもなぜこの快晴の中雨を降らすのだろう」と呟いた。
「葉が日の陰りで閉じたり開いたりするみてーだから、雨がやんだ後も水が滴るんだろ」
「なるほど。だからレインツリーですか」
「お前みたいだな」
 そう言って、くっとランサーにしては控えめに笑う。
 
 表面は鉄壁の鎧を纏っているけれど、臆病で本当はあの木の葉のように自分の感情をたたんでしまう女。それを意識的に見ない振りをしている弱い人間・・・だが。

 むっとバゼットがランサーに詰め寄る。
「なんですかその言い様は。私が弱音を吐いて泣くような人間に見えるのですか!」
 なんて分かりやすい。彼女の様子についに我慢し切れなくなったのか大声でランサーは笑った。
「おもしれぇなぁウチのマスターは!」
 わしわしとランサーに頭を撫でられて、益々バゼットの怒りが爆発する。
「ら・ん・さ〜!」
 
   *

 ふと過去を思い出し、ああこの木の前にいるからだなとバゼットは微笑んだ。
 目の前、見上げればそこには大きな合歓の木。
 さぁと風がバゼットと合歓の木の間を吹き抜けていく。片腕の袖がそれに合わせてゆらゆらとはためく。
 
 だが、バゼットはこの木のように安らげる存在なのだ。
 一本の木のように、本当はしっかりと伸び伸びと成長できる女なのだ。そう、バゼット自身が言った『生命の滴』のような。早く気がつけよなあバゼット。

 
合歓の木はまるでランサーの代弁とばかりに、陽光煌めきながら優しく、優しく、彼女の上に滴を降らせた。
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2007/1/15
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