醒めない夢ならいらないのです
--ほら、起きろよバゼット。
 
 誰かがそう、私の耳元で囁いた。
 でも まだ 眠っていたいの。
 今とても見ていたい夢があったの。
 もう少し。もう少し。もう少し。
 
--じゃ、ずっと寝てるか?
 
 あきれた声。無関心な声。
 気まぐれな猫がほんの少しの興味さえ失ったかのよう。
 待って、だって本当にあとちょっと。
 
--それでいいんだな?
 
 きっと最終宣告。私は確信する。
 
 そして、このままでいたらきっと私はこの変化のない場所で
 貴方に会うこともなく
 近づく事もなく
 ただ永遠に
 存在すら
 危うい
 夢に
 夢
 
 
 
 
 目が覚める。薄暗い室内。寝ていたと思われるソファから起き上がり、周りを見る。
 廃墟だ。
 高く昇った月の光が窓から差し込んで、今が深夜だと気が付く。
 とても悲しくて嬉しくて悔しくて優しくて焦がれて寂しくて、喜怒哀楽全てごちゃまぜの感情が押し寄せてくる。
 思わず壁に拳を叩きつけると、壁に亀裂がピシと入った。
 無音の世界にようやくパラパラと粉の舞う音。
「此処に貴方達は、いない」
 ずるずると壁に拳を押し当てたまましゃがみこむ。
「いない」
 けれど。
「此処は私が生きる場所」
 貴方たちの分まで、生き汚く生きてやる世界。
 
 ねえだからもう

 醒めない夢なら いらない。
 

 私は生きていく。歩いてく。
 自慢できるくらいに、未来を勝ち取ってやるから。
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 醒めない夢ならいらないのです
2006/6/9
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