全部終わったら殴らせなさい
あてんしょーん
 
「全部終わったら殴らせなさい」はWEB拍手で公開していた小ネタの続きです。
ぶっちゃけ話も何もあったもんじゃないイチャイチャ温泉ネタ。
大丈夫な方は読んでください。
うちが普段書くものと変わらないジャンとか言わないでっ(ノ∀`)
 まどろみに飲まれて私は暖かな気分にたゆたっていた。
 時々ぼんやりと思考が戻ったり、髪を優しくかきわけて、誰かが頭部をなでてくれたりする錯覚。それは子供時代ほしくてほしくて、けれど臆病で無関心な振りをしていた私には与えられなかったもの。嬉しくて、心がほわほわと温かくなる。
 
 ずっとこのままいられればいいのに。
 また優しく髪をかき分けられる。気持ちよくて、その撫でてくれている「何か」にそっと手を伸ばす。ゴツゴツとした大きな・・・伸ばした先、きゅっと指を掴まれる。
 
「・・・起きたか?」
 耳元で響く呟きに、ぼんやりと思考が戻ってくる。
 
「ん・・・ぁ・・・ラン、サ・・・?」
 はっきりしない思考で、ただぼんやりと声の主を見上げる。
 ピションッブラッドの瞳が細められて、私を見つめる。
 
「湯あたりしてぶっ倒れたの覚えてるか?」
「・・・・湯あたり・・・」
 子供のように言葉を繰り返して。
 
 一気に思考が開けた。
「・・・!?」
 そして自分が思い切り彼に抱きしめられている事にも気付いてしまった。慌てて退こうとして、咄嗟に身体に力を入れる。
「あれ・・・?」
 けれど、起きあがろうとして力が入らない。そしてランサーに抱えられていた足が、滑って地面に・・・・つかずに、ぽちゃんとお湯に浸かった。
「え?」
 
「湯あたりしてるんだから無理に起きあがるなよ」
 笑いながら、ランサーが片手でなんなく私を抱き込み直してしまう。
 こてっと、情けない事に再びランサーの胸に倒れ込んでしまう。
「・・・・っっ」
 浴衣姿の逞しい胸に縋り付くような形になってしまい、恥ずかしくて視線を逸らせば、そこは先ほどまで浸かっていた温泉だった。
 すでに深夜を回っているのか、空を見上げれば月がとても高い位置にある。
 ランサーは私を抱きかかえるようにして、岩場に腰をかけて座っている状態だった。足だけお湯に付け、片手にはいつのまにか小さな白い陶器の入れ物を持ち、嬉しそうにそれをあおっている。
  
「私は・・・倒れたのですね」
「ん? あぁ」
 倒れる直前、伸びてきた腕だけが思い出せる。
 そして一番肝心な事に行き着く。
 
「・・・・・・・・」
 言葉が出ない。絶句するとはこういう事を言うのだろう。
「どうしたバゼット?」
 わなわなと震える私を不審に思ったのか、ランサーが声をかける。
 しかし私は返事を返す余裕などこれっぽっちもなく。
 
「ららららら、らんさーっっ!」
「なんだよ」
 
「わ、私はいつの間に・・・浴衣を着ているんでしょう・・・・」
 語尾はもうなんというか、力なく小さな声になってしまう。
 そう、私はいつの間にか、浴衣を羽織っていた。これ一枚しかまとっていない事に、頼りなさを感じて泣きそうだった。
 にっと、ランサーが待っていましたとばかりに笑う。
「そりゃもちろん、ぶっ倒れたお前を助けたオレ位しか着せる人間はいないと思わないか?」
 いやー、役得だったぜ〜と悪びれもなく言っているこの男に、今こそフラガラックを打ち込みたいと切実に思った。
 
「・・・・離して」
「駄目だ」
 ぶっきらぼうに呟いた言葉はあっさりとランサーに遮られる。
 そして私を更に引き寄せて呟く。
「目が覚めるまで待ってただけありがたく思えよ」
 
「え? っ・・・ッ!」
 突然私の胸元に埋められるランサーの顔。全身が震えるような衝撃と、ちくりと唇を押し当てられた感触。
 それが数度、繰り返される。
「・・・・・!んぅ・・・・っ」
 まるで他人の身体のようにいう事は聞かず、与えられる感情に震える。
 自分とは思えない甘い声に、羞恥と共に口を手で押さえる。
「イイ声」
 私の胸元から、上目遣いに見上げてきた彼の視線とかち合って逸らせなくなる。
 
「なぜ・・・?」
 生理的に零れそうになる涙を我慢して、ランサーに問いかける。
 やれやれとランサーは笑って。
「オレも一応健全な男なんだよ。好きな女を抱きしめてるだけで我慢出来るほど不能じゃねぇぞ」
 どっかの弓兵は我慢しそうだがなーと付け加えて。
 私はランサーが口にした『好きな女』の響きに一瞬思考を奪われて。
 いつの間にか迫るランサーの顔に、不覚にも流された。
 
 
 
 ・・・とりあえず、後で一発殴らせなさい。
 思いっきりグーの拳でっっ。
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 全部終わったら殴らせなさい
2006/1/20
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