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Fate/hollow ataraxia
後悔したって手遅れ、そうでしょ?
☆
それは、なんとなく呟いた一言だった。
「そーゆーの着る様になったんだな」
視線でバゼットの深いワインレッドのスーツに目をやる。
スーツ自体は過去となんらかわりはしないけれど。
「これですか」
ぴらと、バゼットは無造作にスカートの端を手に持つ。
スリットの入っているスカートから、無防備に覗く白い腿が露になる。
おいおい誘ってるのかよ、と一瞬考えるも、相手がこれっぽっちも意識していない事、無条件で自分を信頼している事が分かってしまっていたので、手なんて出せる状況でなかった。
全体的に艶っぽくなったバゼットを前に、やたらと葛藤する自分。そんな苦悩もいざ知らず、バゼットはなんと答えるか少し悩み、
「心境の変化です。おかしいですか?」
肩にかかった髪を後ろに払いながら、なぜかふわりと笑った。
『私たちは勝てるでしょうか?』
目の前の女の姿が、今のしぐさとは全く違うはずなのに、4年前とだぶる。
そして、少しばかり残念な感情に気が付いて苦笑い。
クーフーリンとあろう者が、過去の事を残念がっている。
なんて滑稽。
しかし、この女の過ごしてきた4年間を思うと、惜しくて仕方なかった。自分が見ていなかった時間、この女はどれほどここまで来るのに磨かれたのだろう。
それ程、今のバゼットは魅力的だった。
「ランサー?・・・クーフーリン?」
反応のない自分を疑問に思ったのか、バゼットがオレの頬に手を伸ばす。
今、俺に触れるな。思考はそう思った。けれどその手をそのまま絡めとって、俺はバゼットを背後から抱きしめる。
「・・・・っ」
その均整の取れた肢体の感触に、酔う。
その惹かれてやまない心に酔う。
まるで自分と同じような長さの髪に口付けを落とす。
それが離れていた時間を示すようで。
無意識に伸びた腕は、スリットをかき分けて腿に指を這わせる。
びくりと身体を反応させたバゼットは、1つ深呼吸。それから身体の力を抜き、背後の俺に伸ばされた腕。---優しく俺の髪をなぜる。
「・・・4年前の出来事がなければ、私はきっとずっと臆病で、変われないままだったかも知れない」
俺に向けた言葉なのか、自分自身に向けた言葉なのか、呟く。
「世界がこんなにも広くて、色々な生活があって価値観があって、悲しいことがあって嬉しいことがあるなんて、今まで逃げてきた自分には知らないことばかりだった。・・・あなたやアンリや士郎君や・・・コトミネに会えて良かった」
身体をひねり、俺に顔を向けたバゼットは本当に嬉しそうに微笑んだ。
悩んだこと、傷ついたこと、全てを成長の糧にして。
宝石の原石は美しく研磨され。
「色々あったけれど、こうしてまた貴方を呼べた」
それが一番嬉しい、とバゼットは囁く。
それは俺を絡め取る言葉。
「・・・いい女になりすぎ」
囚われっぱなしの自分の気持ちに向けて悔し紛れに一言。
「おや、それは光栄」
楽しそうにそう返してきたバゼットの言葉に、負けたなぁとなぜか思ったのは、絶対に本人には言うまい。
とりあえずはこの目の前にある、俺を絡め取る言葉を紡ぐ唇を、どうやって塞ぐかに専念しようじゃないか。
> 「強く、7題」 配布元【
空詩
】 > 後悔したって手遅れ、そうでしょ?
2006/1/6
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