逃げるなんて冗談じゃない
 数キロ先、かすかにその全貌を見せるのは古びた塔の先。そしてここからでも感じ取れる大気中のマナの巨大な乱れ。
「これはまぁなんってーか、頑張りすぎじゃねえか」
 ソレをやはり同じく感じているであろう全身青躯の彼は、片手に握る真紅の槍を、肩たたき替わりのように上下に揺らしている。表情はほんのり楽しそうで。
 私は右手に皮手袋を通しながら、つい言ってしまう。
「こんな時に笑うのは不謹慎ですよランサー」
 そう言ったにも関わらず彼は私に顔を向け、にっと深く笑う。
 しかも私の頬をぐにっとつまんで来た。
 
「な・・・・っ!?」
「そういうお前は何でニヤけてるんだろうなー。オレの気のせいかぁ?」
「わ た し のどこがニヤけているんでしょう?」
 私の頬をつまんでいるランサーの腕を触り、つねられたまま笑顔で答える。ついでにその腕を思い切り握り締める。
 彼はすぐに顔をしかめ、
「いやもう今全開で笑ってるじゃねぇk・・・」
 ギリギリ。
 ぱっと頬をつねっていた指が離れる。
「うんあれだな、正直オレが悪かった」
 お互い目を合わせて、どちらともなく吹き出してしまう。
 
「ほら、行こうぜマスター。オレ達が在る場所にさ。
 それともこのまま放置しとくか?」
 そうイタズラッ子のように問いかけて。
 
『逃げるなんて冗談じゃない』
 お互いの声が同時に被る。
 
「だろ?」
「当たり前です」
 
 さあ、私達が在る戦場へ、私達が在る場所へ。
 貴方と一緒に駆け抜けよう。
 それが、
 
 
 私の永遠の誓い。
> 「強く、7題」 配布元【空詩】 > 逃げるなんて冗談じゃない
2005/12/30
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