開いた扉の
 しんしんと夜の街に降り積もる雪。12月24日その日付が、後10分程で変わる。
 色とりどりのイルミネーションで飾られた木々が明るく道を照らす。
 そして夜の街、片手に傘、片手に包装された包みを抱え、私は大きくため息をついた。
「結局、誘えなかった…っ」
 
 ランサーを誘う事。あんなに悩んだくせに、本当に私は馬鹿だ。でももし断られたら、やっぱりショックで。きっと立ち直れない。それにクリスマスなんて、私には似合わないだろう。
 なぜ自分がショックを受けるのか、なんだかもやもやした気持ちが晴れず、自分自身の気持ちが良くわからなかった。
 
 でも思うのは。
「…がんばって誘ってみればよかった…」
 その一言に尽きる。
 
 しばらく歩くことに専念し、段々と近づく家路。
 私の気持ちを代弁するかのように、街から遠ざかる度に明かりが見えなくなっていく。
 前を見つめれば、大きな洋館。とりあえず仮宿として住んでいる双子館の片割れ、一人では大きな家。けれど。
「ぁっ…!?」
 思わず駆け出す。
 玄関の前に辿り着く。扉を破りたい衝動。
 見上げた館は、部屋中の窓から明かりがもれていて。警戒する事も忘れて、私は扉を開く。
 開いた扉の向こうには。飾り付けられたクリスマスツリーと、その隣にあるソファーに胡坐で座っている彼。得意顔の…ランサー。
 
「ランサー?」
 
「よぉバゼット。遅かったな。バイト先から拝借してきたツリーと、貰ったケーキもあるぞー」
 当たり前の様に言って笑う。
「なん・・・で?」
「なんでと言われてもな」
(まさかお前の独り言を聞いちまったからとかそんな事はないぞっ)
「ランサー? 聞こえません」
 何かをランサーは呟いたようだけど、それはよく聞き取れない。
 素早くランサーの傍まで近づいたけれど、ランサーは、まぁ聞こえなくてもいい事さと言って、今度ははっきりと声を出す。
 
「こんなイイ女を一人にさせとくのはもったいないだろうが」
「な、何言ってっ!?」
 さっと赤面したであろう頬を手で抑える。
 どうしようどうしよう。凄く、嬉しい。
「で、こんなイイ男も誘わないと損だぜ?」
 片目を一瞬器用に瞑って笑う。 
「貴方って人は…まったく…ありがとう」
 私も釣られて笑ってしまう。
「ほれ、ちったぁクリスマスを過ごす2人っぽくするぞ」
「え、え?!」
 ぐいっと右手を引かれてそのままソファに座るランサーの上に倒れ込む。
 あまりにも自然な動作で、一瞬何が起きたのか。
「ら、ラン…っんん…」
 口の中に進入したランサーの舌が、歯列をなぞる。
 不意打ちの深い深いキス。
 私の力が抜けたのを見計らったかのように、唇が離される。ぺろりと私の唇をひと舐め。ランサーはにっと笑って。
 
「メリークリスマス、バゼット」
 
 かちりと。
 時計の針が24時の時間を告げた。
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2005/12/24
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