手が触れるたび
 貴方が私の輪郭をなぞるたび。貴方の手が触れるたび。
 貴方を愛しいと思う気持ちが溢れ出して、意味の成さない声になる。
 
 貴方が私に囁くたび。貴方の手が触れるたび。
 貴方が好きだと言ってくれた、私自身を好きになっていく。
 
 
 
「げ、バゼットどうした?」
「っ…?!」
 顔を上から覗き込まれて、自分が泣いていることに気付く。いつもは飄々としているくせに、今はやたらと困り顔の彼が妙に新鮮で。涙は止まりはしないけれど心は落ち着いていて、彼の表情を見てくすっと笑ってしまった。
「あのなぁ、泣くか笑うかどっちかにしろ」
 この状況で啼く以外に素で泣かれるとすげえ困るんだけど。
 呟かれて、思い出したかのように、身体中が熱くなる。
「-----っ。す、みませんっ」
 まるで懐いた犬が頬ずりするかのように、彼は涙で濡れた私の頬や目蓋に唇を寄せてくる。
「泣いた訳くらい言ってみ?」
 頬に声が響くくらい間近で彼が問うてくる。
「…ですね」
「小さすぎて聞こえねぇぞバゼット」
 
「…嬉しすぎると、」
「ああ」
「嬉しすぎても、涙というものは出るんですね」
 ため息のように搾り出した言葉は。
「ったくお前ってヤツは」
「呆れましたか?」
 にっと彼が笑う。
「いや、煽り上手でびっくりだぜ」
 
「は?」
 それはどういう意味ですか。と言いかけた言葉は。 
 貴方の手が私に触れて。
 意味の成さない言葉になって、口の中で溶けて消えてしまった。
> 「半端に途切れた10のお題」配布元【気楽に10のお題】 > 手が触れるたび
2005/12/19
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