その想いは未だ蕾にもならず
マック×ローズ
オルコット原作の「8人のいとこ」「花ざかりのローズ」・・・・文庫はすでに絶版されているそうです。そうだよねーうちが生まれる前の時代の本だものね(寂)
もし古本屋でこの2つを見かけましたら、ゼヒ読んでみてはいかがでしょうか。
本当に素敵なお話ですよ。
 ひょろりと背の高い少年は、仏頂面で図書室の隅に居座っていた。
 
「…理不尽だ」
 冷めた瞳で辺りに気を配る。少年の名前は【マック】通称【虫】。本ばかり読んでいるので、いとこ達からはそう呼ばれる。
 が、こんなに薄暗くて埃っぽい中では彼は本を読めない。
 ほんのり青い遮光眼鏡を鼻の上に押し上げ、たった一つの楽しみさえも奪われた気分で、ますます少年は顔をしかめ瞳を閉じる。
 そもそもだ、どうしてあんなに【女】と言う生き物は泣くんだ。興味のない話に相槌をいちいち打つのも面倒くさい。少し前の出来事を思い返して深い溜息。
 
 先ほど、話しかけてきた見知らぬ少女をマックは無視した。重要な用事ならば返事は自分だって返す。けれど少女が次々と問いかけてくる話はうんざりするような内容ばかり。
「何がすき?」「趣味は?」「身長高いよね」「勉強できて凄い」…なんて実のない会話だろう。
 そもそも自分はこの少女の事を名前すら知らないのに、なぜこんな事を聞かれるのか。
「・・・・」
 呆れて言葉も出ない。無言のまま顔を上げて少女に視線をやると、少女は突然泣き出した。困惑したマックの傍に、今まで少し離れた場所にいたらしい、やはり見知らぬ少女たちが数人押し寄せてくる。
「ひどいわ」「話くらい聞いてさし上げても良いじゃないの」エトセトラ。
 マックは慣れた様に、うんざりする気持ちを抱えて席を立った。
 そして現在に至る。

「理不尽だ」
 マックは、自分のいとこ達と比べれば地味な部類だ。けれども、それはいとこ達の中でだけであって、それなりに顔も整っていたし、身長もある、カレッジでの成績も常に首席、眼鏡の奥の青い瞳はとても理知的だった。他所の少女たちが騒ぐのも無理からぬ事だった。
 けれどマックにはその理由が分からない。ゆえに対応に困る。ただでさえ元々興味のない事に関しては無関心を貫き通す性質でもある。そして、こんな事は結構頻繁に起った。
 マックの中で『女性には関わらない』という、暗黙の了解が出来てしまったのも仕方がない事だろう。
 ほとぼりが冷めるまでしばらくこのままかと思うと、ますます理不尽さが募って行く。
 
「…ローズがいればなぁ」
 思わずこぼれた自分の言葉に、マックはしみじみと大切ないとこの少女を思い浮かべた。
 半年前、尊敬するアレック叔父さんと友人のフェーブと共に、遠い異国へ旅立った少女。全ての事に一つ一つ真剣で、真摯に取り組む少女であり、自分を理解する数少ない友人でもある。そしていつもマックに新鮮な世界を見せてくれる少女だった。
 そのいとこがいない今は、ほんの少し何かが物足りない。だからマックは気を紛らわすように、一番好きな勉強に取り組む。何かを学んでいる時は、そんな事を忘れてしまえるからだ。
 ほんの少し少女に思いを馳せて、なぜこうも感傷的になるのか少しだけ疑問に考えながら、マックは見なかったようにその感情から思考をそらした。

 
その想いは未だ蕾にもならず、ただ心の奥に沈んでいる。
いつか花咲くその日まで。

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2006/4/26
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