鉛色の空を見上げて
ロック×レヴィ
 彼女が見上げた初めての日本の空は、鉛色したNYの冬空を思い出させる。そしてロアナプラの生活に慣れきった身体には身を切るような寒さだった。
 
 この分だと雪が降ってくるのかもしれない。
 一瞬、走馬灯のようにNYでの生活が脳裏に通り過ぎていく。地べたを這いずり回って生きていたあの頃を。
 しかしすぐに彼女は現実に戻り、目の前で白い息を吐きながら自販機に指を伸ばす彼に視線をやった。
 炭酸の抜け切ったコーラのような、ぬるい世界に全く違和感なく存在出来る男だ。言い方を変えるならば、澄んだこの場所こそが本来彼がいる場所だったものではないか?
 今ならまだ、彼はその世界に帰れる。濁った世界でしか生きていけない歩く死人とは違うのだ。
 
 ガコン、と缶ジュースが落ちる音で、彼女は現実に戻っても夢うつつで彼の一連の動作を見ていたことに気がつく。女々しいな、と浮かんだ言葉を彼女は苦々しく飲み込み、彼のコートに指先を伸ばした。
 
「レヴィ?」
 
 彼は、普段とは違う彼女の行動に、少しだけ驚いたように目を見開く。彼女はその顔を見て笑った。
「なんでもねェよ、バァーカ」
「レヴィ、一応気遣った俺にバカはないだろ」
 彼もいつもどおり、彼女の暴言を聞き流しながら笑った。ほら、と暖かい缶コーヒーを彼女に差し出す。
 
「あったけぇなぁロック」
 缶コーヒーを頬に当てて彼女は呟く。無意識になのか、彼女が掴んでいる彼のコートに皺が多くよった。その動作に彼は気がついて、少しだけ瞳を細め、うっすらと優しく微笑んだ。
 
「ああ、あったかいな」

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2007/4/26
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