時つ鳥
蒼紫×操
 縁側で薫とひなたぼっこをしていた操は、はぁーっと大きな溜息をついた。
「操ちゃん? どうかした?」
 剣心と一緒に久々に京都に来た薫だが、操の表情が冴えていない事を不思議に思って問い掛ける。
 「うう…」と唸った後、ウルウルとした瞳で操は薫に縋り付く。
「薫さぁぁん、あたし早く大人の女になりたいよう〜!」
「え?え?」
 少し驚いて、それから薫はピンとくる。
「もしかして蒼紫さん絡み?」
「大当たり! 薫さんてばすっごーい! どうして分かったの!?」
 凄く分かりやすいという言葉を咄嗟に飲み込んで、曖昧な笑顔で「カンよカン」と薫は答える。
「一体どうしたの?」
 はぁっと操がまた溜息をつく。
「蒼紫様と外に出るとね、絶対に兄妹に見られるの! もうそれが悔しくって悔しくって! しかも気にしてるのは結局自分だけで…」
 
---きっと、蒼紫様もあたしの事は妹とでも思っているに違いなくて…蒼紫様と釣り合う様な、大人になりたい
 
 最後に小さく呟いて、えぐえぐと涙を零す。
 泣き出してしまった操の頭を優しく薫は撫でる。一瞬、子供扱いされたと思って操の頬は膨れるが、気持ちいいのかそのまま目を閉じた。
「早く、大人になりたいなぁ」
「操ちゃん、そんなに周りの目なんて気にしなくていいのよ。貴女が違うと思っていればそれが真実だし、今は今しかないんだから今の自分を精一杯楽しまなきゃ」
 「もったいないわよ?」と操の頭を撫でつつ答える。
「そうなのかなぁ」
「そうなのよ」
 クスリと薫は微笑んで、まるで昔の自分を見ているようで、親近感が沸くのを止められなかった。
 恵さんの大人っぽさに憧れて嫉妬した自分の少女時代が浮かんでくる。
 そして、今少女時代まっさかり、激しく色々な事で悩む操を楽しそうに見つめた。
 ふ、と顔を操の背後に向けて、いたずらを思いついた少女のように薫は笑う。
 
「それに、蒼紫さんだって操ちゃんの事を妹だなんて、きっともう思ってないわよ」
「ぇええ!? それは悔しいけどないと思うなぁ」
 顔を朱に染めて、操がアワアワと両手を振って否定する。
 
「じゃ、聞いてみちゃえば?」
 くすくす笑いながら薫が操の背後を指差す。
「ふへ?」
 指差す方向にくるりと操は振り返って。
 
 そのまま固まってしまった。
 
「私、お邪魔だから消えるね」
 にっこり笑い、ぽんと操の肩を一叩きして薫は立ち去っていった。
 
 
 
「ああああああ、あ・・お、し様…?」
 ぎくしゃくと、柱に背を預けて自分を見つめている蒼紫に問い掛ける。
「なんだ」
「まさか、全部聞いてた…?」
「…」
 無言の蒼紫の態度を肯定と受け取った操は恥ずかしくて頭が混乱する。
「うう…どうしよ…」
 そんな操をどう思ったのか、蒼紫が口を開く。
「…『大人になりたい』のくだりから聞いていた」
「あぁぁぁ、それってほぼ全部〜〜〜!?」
「そうなのか」
 さらりと蒼紫は言ってのける。
「そうなんです〜…」
 赤くなった頬を蒼紫に見られるのが恥ずかしくて、操はうつむいてしまう。
 と、蒼紫が操の傍まで歩き、片膝をついて縁側にしゃがみこむ。そしてぽんと、先ほど薫がしてくれたように操の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜるように撫でる。
 
「…蒼紫様?」
 なんだか暖かく、気持ちよく、操は顔を上げて蒼紫を見つめてしまう。
 
「ゆっくりでいい」
 「ふ」と、本当に微かに蒼紫が唇の端を持ち上げて笑った…ように操には見えた。
 ぱぁぁぁっと表情を明るくし、嬉しそうに操は頷いた。
「…はいっっ、蒼紫様っ!」
 ぎゅうっと自分の頭を撫でてくれていた蒼紫の腕に抱きつく。
 
 
 
 そんなに早く、大人にならなくていい。
 俺が、逆にお前に追いつけなくなるから。
 
 …お前と一緒に、ゆっくりこの感情を育てていく。
 ゆっくり、ゆっくり。
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2005/5/10
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