煙草味の君
シェンナ×ナナス
 ママトト屋外−…シェンナはいつものように愛用の銘柄のタバコをふかしていた。座り込んだ足下には子犬のナナスが、「ここは特等席」と言わんばかりの顔で寝そべっている。
 ふっと地面に影が落ちる。
「あ……? なんだナナスか」
 タバコを口に加えたまま顔を上げたシェンナは、影の正体を確認してふっと笑う。
「シェンナってばまたタバコ? 『禁止』なんて言わないけど、そんなに吸うとやっぱり身体に毒だよ」
 自分の事を気遣う声。
「ヘーキだよ。吸ってるヤツほど以外に丈夫なもんなんだぜ?」
 逆光でナナスの表情がよく見えないシェンナが、瞳を細める。
 ナナスが顔を傾ける。細く柔らかい銀髪が、惜しげもなくサラサラとシェンナの額にかかる。
「そうなの?!」
 純粋にナナスが驚く。
 ぶっとシェンナが吹き出した。
「ぶぁーか! 真に受けるなよ、例えだよ、例え!」
 シェンナは、口にくわえていたタバコを地面でもみ消す。
「例え…」
 オウムのようにナナスが呟く。
「そう、例え」
 はぁ、とナナスがため息をつく。
「僕もタバコが吸えれば、シェンナの気持ちが少しは分かると思うんだけど…」
「吸ったらお前咳きこむしな!」
 シェンナが笑う。…と、シェンナの腕がナナスの顎に伸びる。
「!…っ!?…シェ……ん……」
 ナナスの瞳が大きく見開かれる。
「…ナナス…」
 何度も唇を重ねて。
 深く深く相手の舌を絡め合って。
 
 口付けは、シェンナ愛用のタバコの香りがした−−。
 ナナスが気が付かなかっただけなのかも知れない。
 いつでも味わっていた味。
 これは、シェンナのキスの味。
 
 そのままナナスが体勢をくずしてしまい、シェンナの上に覆い被さってしまう。
「あ、ごめんね…」
 頬を赤くして、ナナスがシェンナの上から起きあがる。
「別に悪くねぇよ。お前も今更照れるか、ナナス」
 からかい調子でナナスにシェンナが話しかける。
「ワン!!」
 子犬のナナスがいつの間にか二人の間から抜け出しており、遠くの方で吠えている。
「チビにまた気を使わせちまったか」
 シェンナがタバコを手に取り出しつつ言う。
「タバコ…」
 ふっとナナスが呟く。
「あん?」
「…その銘柄のタバコなら、シェンナのキスの味がするから吸えるかも……」
 
 ぼと。
 
「……………………ナナス」
 シェンナは指先からタバコを落としたことも無視して、ナナスの名を呼ぶ。
「なに、シェンナ?」
「お前さっきの言葉は人前で絶対言うなよ! 後お前、タバコは吸わなくていい!!」
「え? なんで?!」
「……っ……言うかっ!!」


 
 
 
俺が照れたなんて……
煙草に一瞬でも嫉妬したなんて……
この鈍感男には、
絶対に言ってやらない。

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