白兎の時間
ペーター×アリス
※死にネタですので苦手な方はご注意ください
「…アリス」
 貴女は答えない。
 抱きしめた身体は刻々とその温度を失っていく。僕の手を包み込むように握り締めて、「あんたを残していくのが一番の心配事よ」と、気丈に笑った、最後まで美しい僕の唯一の人。

 優しく貴女の髪を撫で付ける。
 僕が殺してしまった貴女。殺したくなどなかった貴女。
「貴女が居なくなってしまったら、僕は狂ってしまうと思っていたんです」
 けれど、今自分の思考はクリアだ。今までにないくらいに心は静かで、全く波立たない。
「…薄情な僕を叱ってくださいよ? ねぇアリス、御願いですから」
 けれど貴女はもう答えてくれない。
 この世界で、換えの利かない唯一の人。
 僕の中で、最初で最後の愛する人。

「大好きです。愛してます」
 だから置いてなんていかないでくださいよ。
 どこまでも貴女に付きまとうって、僕約束したじゃないですか。
「ねぇ、アリス…?」
 
 
 
 
 真っ白な兎さんは、淡雪のように優しく微笑み、彼女にキスをする。唯一白くない赤い瞳がそっと閉じられる。白。真っ白。純粋で一途な白。
 
 
 
 
 
 

 そして響き渡る一発の銃声音。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 眠るように逝った老女の手には、壊れた金色の、辛うじて【懐中時計】と分かるもの。
 それはしっかりと老女の手に包まれて、満足げに一度だけ瞬いた。
 
 
『アリス…ずっと愛してます、大好きですっ!』
 
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2008/5/19
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