TOP SECRET
レイナート&レオン&シャイアさん
 マドルクを倒した各国の君主達、そして身近な臣下達のみで開かれたささやかな宴。そんな中でトパーズの君主レオンはぼそっと言った。
「しっかしシャイアとレイナートが魔法学院の同期とはなあ」
 そこまで言って---(最悪な組み合わせだ)そんな言葉をあわててレオンは飲み込んだ。
 
「おや? レオン坊や。まだ何か言いたそうじゃないか」
 眼鏡を上に押し上げながら、シャイアはにやっとレオンに笑いかけた。同じく隣にいたレイナートもにっこりと【無邪気そうな】笑顔をレオンに向ける。
(こ、怖えぇぇ〜)
 逃げ出したい衝動をなんとかレオンは堪え、ワザとらしく咳払いをした。
「そういえばシャイアさん」
 レオンを哀れに思ったかどうかは謎だが、レイナートが助け舟よろしくシャイアに話しかける。
「ん? なんだいレイナート」
「まだ聞いた事がありませんでした、トパーズの居心地はどうですか? 楽しいですか?」
 愚問、とばかりにシャイアが楽しそうに笑う。
「いる奴等はみ〜んな堅物だけどそこがまたおもしろくて最高よぉ。レイナートも今度遊びにおいで。・・・そうそう、一番おもしろいのはこの坊やなんだけどね〜」
 バシバシと力加減もなくシャイアはレオンの背中を叩く。
「イテェっての!・・・あ、つーかさ、オレがガキの頃にシャイアがトパーズに来たんだよな? もちろん学院は卒業してて・・・」
「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
 シャイアをまじまじっと見つめる。
(シャイアの年はどう無理矢理若くサバよんだって29かそこらだよなぁ)
 今度はちらりと、レイナートに目をやる。
 明らかに自分より年下っぽい外見の(それどころか十代にさえも見える)少年?青年に疑問を抱く。
 
 げし。
 と、そんな事を考えたレオンに、不意打ちでシャイアの拳が気持ちよくボディに決まった。
 
「げほっっ!」
 
「レオン坊や、あんた考えてることが顔に出すぎ。人の顔をじろじろとぶしつけに眺めんじゃないよ」
 ぷっと、レイナートが笑いを堪える。
「シャイアとレイナートが同期・・・どういう事だよ?」
 レオンはシャイアに殴られた部分をさすりながら、殴られたばかりにも関わらず先ほど思った疑問を口にする。
 レイナートとシャイアは顔を見合わせて笑った。
 
「分かりませんか?」
 レイナートの悪戯っぽい表情にレオンはついムキになる。
「今考えるから答えはまだ言うなっっ!」
 考え込み始めたレオンを他所に、シャイアは悠々とワインや酒に手を伸ばしはじめた。その酒を口に含むペースは恐ろしいほど早かった。
 レオンを横目でおもしろそうに眺めつつ、レイナートはシャイアに話しかける。
「やっぱり相変わらずうわばみなんですね」
 そう言いながら、レイナートもコクコクとワインを飲み進めていた。
「あんた程に底抜けって分けじゃないわよ、レイナート?」
「あはははは! ボクなんてまだまだですよ〜。さすがにソフィーには敵いません」
 二人、けろりとした顔で笑いあう。
「昔はよく飲みまくってたけどさ、トパーズはモンクが多くってねぇ。さすがにそういうトコはみんな堅いっていうかねぇ。あたしも飲む量が減ったよ」
 酒の飲めない悔しさをブツブツとレイナートに漏らす。レイナートも慣れたもので、ふんふんと相槌を付きながら程よく聞き流す。
「昔はボクを無理矢理付き合わせましたよね〜。トイスの目を盗んでいくのは結構楽しかったですけど」
 この同期たちは一体どんな学院生活を送ってきたのか。背後では尚、レオンが考え込んでいる。
 ちらりとレオンに視線を送りシャイアは呆れながら言った。
「あんまり考えなくても分かると思うんだけどねえ」
「こういう事は謎にしておくのが楽しいんですよね」
 レイナートがにっこりと再び笑う。
「トパーズは本当に楽しそうな所そうですね。気が向いたらトラッドノアにもぜひ遊びに来てくださいねシャイアさん」
 「じゃあボクそろそろ行きますね」---レイナートを見つけ出したソフィーが丁度こちらに見えていた。
 
 
「なあシャイア」
「なんだい?」
「ヒントくれ」
「・・・まだ考えてたのかい」
 まだ答えの出ていないレオンを見て、シャイアは呆れを通り越して、なんだか手のかかる息子を目の前にしている母親の心境になってきてしまった。
(アタシはまだ独身だよ・・・)そう思いつつ、なんだかトパーズから離れられない訳を再確認(何しろこんな奴等ばかりゴロゴロいるのだ)してしまったシャイアである。
「ヒントねぇ。とりあえずレイナートお見てごらん」
「ん、ああ」
 レオンはレイナートを目で探す。以外にあっさりとトラッドノアの君主は見つかった。隣に獣人達の王ゴンゴスの巨体があったから目が行ったのだ。
「あの二人は仲がいいのかわりぃのか・・・」
 イメージ的にはボケとツッコミを交互で出来る二人だと、全く関係のないことを考えながらもレイナートをそのまま観察してみる。
 ゴンゴスに何かを話しかけられたのかこくこくと素直に頷いている。
『        』
 何か返事をゴンゴスに返すと、レイナートとゴンゴスは二人そろって目の前にあるテーブルの料理(シェフが腕によりをかけた品々)に素手を伸ばした。
「・・・・何やってんだあいつ等は・・・」
 なんとなく頭痛がして、思わず額に手を当ててしまう。
(ジュノーンがあの二人が揃っているのを見ると疲れた顔をする気持ちがなんとなく分かったような・・・)
 レイナート、ゴンゴス(もしかしたらティリスも入るかもしれないが)は、普段冷静なジュノーンを会話のみで『降参だ』と言わしめたほど追い込んだことのある前科持ちなのである。滅多なことでは顔色一つ変えないジュノーンではあるがこの2人の事になると「あいつらは私では無理だからな!」と顔色を変えるのである。
 まあそれはともかく。素手で摘み食いを実行しようとしていた二人の犯行は未遂で終わった。
 レイナートとゴンゴスの背後に《ゴゴゴゴ・・・》という効果音がまさにぴったりなソフィーが仁王立ちしていたからである。
 ちらりとゴンゴスに視線をレイナートが送る。ブンブンとゴンゴスが無言で首を縦に振り・・・・二人共それはそれは素早く逃げた。
「・・・・・・」
「・・・坊や、ったく何呆気にとられてんだい。レオン坊ったら」
 大声で《坊や》を連呼されて、レオンはがっと我にかえる。
「だーっっ!! その坊やはやめてくれっっ!」
「無理だね。あんたがもっと精神的に大人になんない限りはさ・・・って危ない答えを言うところだったよ」
 ウィンク一つシャイアはレオンにしさっさと行ってしまった。
「おい!? ちょっと待ってくれヒントにすらなってねぇよそれ!!」
 取り残されたレオンの空しい叫びが会場に響き渡る。
 
 
「あれ、シャイアさん? レオンさんはどうしたんです」
 会場を移動して中庭に出てきたシャイアにレイナートが話しかけてきた(おそらくソフィーから逃げている)。そうしてシャイアはあっさり一言返す。
「置いてきた」
 くすっとレイナートが笑う。そうして「いいなあ」と呟く。
「あの人はボクに無いものを持っている」
「おやめずらしい? あんたが弱音を吐くのかい」
「本音ですよ。急ぎすぎたボクが学び忘れてしまったものだ」
 ほんの少し感慨深げに。
 レイナートの帽子を無造作に奪うと、シャイアはぐしゃぐしゃとレイナートの髪を乱しながら撫でた。
「うわ」
「あんたもこれからゆっくり学びなおせばいいだろ? あいつも、学んで欲しいもんだね」
 くすくすとレイナートが嬉しそうに笑う。
「ボクと学ぶものがまるっきり逆、なんじゃ?」
 レイナートの頭から手を離し、ポンとシャイアが手を打った。そして明らかに企んでいる笑顔を浮かべる。
「いっそのこと坊やをトラッドノアに留学させちまおうかねぇ」
「ああそれはぜひ。楽しみだなあ」
 
 会場で、レオンが一人大きなくしゃみをしたのは言うまでもない。
「・・・なんだか嫌な予感がするぜ。てか結局レイナートの年は幾つなんだぁぁっ」
 そしてまた、レオンの声が会場に響き渡るのであった・・・。
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