久遠の誓い
DF2 サニス&カトゥマンドゥ+誰かさん
「今日はなんだかここに来たかったの。不思議な気分よ、カトゥマンドゥ」
 花や草も生えてはいるが…とある廃墟に、サニスはなぜか足を運んでいた。カトゥマンドゥを隣に従え、ぼーっとサニスは石に座って空を見つめている。
 
「さにす、フシギ?」
 ぎこちない機械音で、カトゥマンドゥが声を出す。
「うん。とぉーってもフシギ☆」
 さわさわと、草原になりつつある廃墟に気持ちよく風が駆け抜けていく。帽子とスカートの裾を押さえながらサニスが笑う。
「みんな心配するかしら?
 でも、何て表現すればいいのかしら…自分の中の《何か》。大切な何かがわたしをここに呼んだような、なんていうか…」
「さにす。理解不能」
「ん、もう!」
 苦笑しながらサニスがカトゥマンドゥの銀色のボディに寄りかかる。
 
 
*
 
 
「こんにちは。小さな王女様」
 高くもなく低くもない、少年の声。その突然の声は、紛れもなくサニスに挨拶をしていた。 
「え…?」
 ふっと声の聞こえた方にサニスが振り向く。
 廃墟の中心、瓦礫の上に…腰掛けた少年が一人。
(見た目はわたし位? だけど…)
 深紅の法衣を纏った少年の、これまた深紅の瞳は…とても深い理知と歳月の光を宿していて…。少年なのか、青年なのか…。サニスにはどちらかよく分からなかった。しかし、警戒する必要などサニスにはなかった。その少年がにっこりと微笑んでいたから。その笑顔だけで、サニスには十分。
 
 帽子を押さえながら少年がひょいっと瓦礫から見事に地面に着地する。
 
「…! オマエ! レ…」
「今日ボクは、ここで待ち合わせをしているんだ」
 カトゥマンドゥの言葉を消すように、少年がサニスに近づき話す。
 それから、いたずらっ子のように笑い、カトゥマンドゥに「しー」っと一差し指を立てる。
「あらためてこんにちは。サニス王女。ボクは…うーん、! ヴァルと呼んでくれればいいよ」
 にこにこと無邪気に笑いながら少年はサニスに名前を名乗る。
「はい。こんにちは! 初めましてヴァルさん」
 いかにも妖しい(偽名っぽい)名前なのだが、サニスも笑顔で応答する。
「レ…」
 ただ一人(機)カトゥマンドゥだけが無表情ながら現実を知っている。
「ヴァル! だよ? カトゥマンドゥ?」
 にっこり。
「あれ? ヴァルさんと知り合いなの、カトゥマンドゥ?」
「…さにす。休眠モードおん」
「ええっ!」
 ういーんと音が一回ボディから聞こえると、それきりカトゥマンドゥは静かになってしまった。
「もぉ! 帰るときには起きてね? カトゥマンドゥ」
「あははは。カトゥマンドゥかわいいなぁ」
 ヴァルが楽しそうに笑う。サニスもつられて笑ってしまう。
「ヴァルさん。今日は誰と待ち合わせをしてらっしゃるのですか?」
 ふっとヴァルの瞳が優しく和む。
「一番大切な人と待ち合わせ。というか…一方的に会いに来たっていうか☆」

 
   やっと、顔を合わせる勇気が出来たんだ。
 
 
 そう言った後、ヴァルが少し寂しそうに見えたのは…サニスの気のせいだろうか?
「トラッドのあ…ムカシ…」
 突然、休眠モードに入っていたカトゥマンドゥが言葉を放つ。そしてまた黙る。
「カトゥマンドゥ?」
 カトゥマンドゥを懐かし気に見つめヴァルが話す。
「そういえば…トラッドノア出身なんだよ、ボク?」
 服、なんとなく似てるよね、と見比べながら。
「そういえば…トラッドノアの服装ですね。あまり見かけないデザインですが、いいですね、その服♪」
 楽しそうにサニスが話す。
(トラッドノアにこんな方いたのね…とても目立ちそうなのに…わたし知らなかった…)
 それに、側にいるだけで感じるこの巨大な魔力は何?
 サニスがそんな事に今更のように気付く。と、それを待っていたかのように、廃墟に強い風が吹き抜ける。サニスは慌てて帽子を押さえる。
 
「ヴァル、さん?」
 そんな中、ヴァルの身体は何かに守られているように、そよとも風に揺れない。サニスと目があったヴァルはただ、ただ優しく微笑む。
「時間、みたいだね」
 なんだか寂しくなって、サニスはヴァルの服をぎゅっと握る。ここに存在していることを確認するように。
「あのっ! あのっ…え…お、お父様?」
 ヴァルの背後…奥の廃墟、父の姿が見える。一瞬笑うと父の姿は消える。
 ヴァルはそっと、サニスを抱きしめる。万感の思いを込めて、囁く。
「がんばれ、サニス。君はボクが出来なかったことを…ううん、君のやりたいことを実現して。この世界で…君たちで創るレジェンドラで…」
 ヴァルの腕の中で、サニスは懸命に名前を思い出そうとしていた。
「わたし、あなたを知ってる? いいえ、知ってます。今日わたしがここに来たのは…」
 
「ボクが呼んだのかな? それとも…。今日はね、ボクが最低の男になった日だったんだ。やっと会えるんだ。…世界が動き出すまでボクは彼女に顔向けできない身だったし」
「どういう…?」
 
「ありがとう。君達のおかげだよサニス。そして…ありがとう、ボクにこんな素晴らしい子と出会わせてくれて。黙って行ってごめん」
「?」
 最後の言葉にサニスが首を傾げる。が、突然体中暖かくなり、すっと何かが自分の中から出ていった感覚。
 
 ヴァルとサニスの前に神官の女性が一人、忽然と現れた。
 
「…待ちくたびれて、怒る気にもなりませんっ!」
 そう言って、強情にその女性は横を向いてしまう。ちなみに目は涙で潤んでいる。
 サニスに少し笑ってから、ヴァルがその人物の所へ近づく。
「ごめん。ごめんよ、ソフィー。もうどこにも消えない」
 その言葉を聞き、嬉しそうに女性…ソフィーがヴァルに寄り添う。
 
「わたしの身体から人? 知ってる? ううん?」
(心が、血が…無意識に覚えてる)
 ヴァルが、サニスに視線を向ける。
「サニス、今日は来てくれてありがとう。君の中のその力を大事にして」
 妹に話しかけるように、娘に聞かせるように。
「ヴァルさん…」
 その名前を聞いてソフィーが一瞬固まる。そしてヴァルを睨む。
「ヴァル…ハートさんですか…。まったく、なんて名前名乗ってるんですっ!」
「あー! そうだった! サニス、ボクの本当の名前はね…」
 
 
 
 
 
 
 昔、昔、8人の英雄がおりました。
  
 彼らの辿った結末は…
 
 昔、昔のお話で、その結末を知る術はありません。
 
 だけれども…

 
 
 
 
 瓦礫の幻だったかのように、二人の姿は消えている。もちろん父の姿も…。
「でも、夢じゃないね!」
(城に帰ったらみんなに伝えなきゃ!)
 幸せそうだったあの人の姿を。あの人達の姿を。
「さあ! 城に帰りましょう! って、カトゥマンドゥ!起きてよ〜」
 サニスのどこか楽しそうな叫び声が、廃墟に響く。


 
 けれども…
 彼らが願った現実は、今ここに。

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