はっぴーエンドは目の前に
レイナート×ソフィー 戦後
 戦後・・・そう戦後。マドルクとの戦いが終わった。
 まず、レジェンドラ大陸で最初にに行われた行事は・・・
 
 
 
「結婚式・・・なんだよねぇ・・・」
 ボクは、ぼーっと目の前の儀式(結婚式)を眺めていた。
--ウェインとティリスの、大陸を挙げての盛大な結婚式。
 大陸中の人々の、幸せの代表! みたいな顔してたっけね。その場にいた皆も幸せを噛みしめるように笑ってた。
「ゴンゴスさんは・・・と、不幸の固まりみたいですね☆」
 と、顔を見ながら言ったら頭を殴られた。
「酷いなぁ。ボクの脳細胞は稀少なんですから、壊さないよう優しく叩いて下さいね?」
−ボカ。
 そう言ったらまた殴られた。さっきより痛かった。
 
 獣人族の王のくせに心が狭いなぁ・・・っと・・・嘘だよ。絶対、失恋するとわかっていたゴンゴスさんを見ているのも、楽しかったよ?

 ぬっと、ボクの目の前にバナナが差し出される。なんだか物凄いバナナだ。何が凄いって、中身じゃなくて皮が・・・金色に輝いてるよ。いや、本当に。中身は普通だけど。
 バナナを差し出しながらゴンゴスさんはからっと笑った。ボクが心の中で色々考えてる事なんか、きっと知らずに。
・・・ああ、でも。
 そんなゴンゴスさんがボクはとても大好きです。
 共に戦ったみんなが、ボクはとても大事です。
 そう思える自分も好きになれそうです。
 
 幸せなんだなぁ、ボク。

「ゴンゴスさん・・・おいしいです。このバナナ・・・」
 バナナを掲げてゴンゴスさんに話しかける。
「・・・そうだろ」
 城の物陰で−。しばらく黙々と二人、バナナを食べていた。
 バナナを食べ終わってしばらくしてから、「がぁ〜っ!!」とゴンゴスさんが叫ぶ。
「ちくしょう〜!! ティリス、オレ様が身を引いてやらぁっ!!」
「あははは♪」
 ボクの笑い声と、ゴンゴスさんの拳の音が、しばらく後に重なった。
  
 戦いも終わり、ボクたちは自分の居場所に帰ってく。
 時間が過ぎるのはとても早くて、目まぐるしくて・・・でも幸せで。
 何をこれからしようか、考えないといけない時期で・・・
 





 
 山積みにされた資料や報告書に埋もれながらボクはペンを紙に走らせる。なぜかって?
 1秒でも早く書きたいことがあるから。ボクは、ボクのやりたい事を見つけたんだ。

「それにしても・・・どうしてウェインとティリスの結婚式を思い出したのかな?」
 首を傾げる、と。
 体が、耳が、扉の向こうから人の来る気配を捉える。
「この足音は、ソフィーだ!」
 ペンを動かすことを中断してソフィーが来るのを待つ事にする。自然と顔は笑ってしまって。
「・・・長い間、こんな日が来るなんて思ってなかったな」
 ほんの些細な笑顔、生活。こんなレジェンドラ大陸だからボクは守りたかったのかも。喜びも悲しみも、それはすべて幸せの第一歩だと教えてくれたこの世界。・・・ボクを成長させてくれる世界。

 ボクは今、あの頃の戦いの記録を一冊の本にしようとしている。何十年、何百年経っても、人々がこの記憶を忘れないように・・・。
 書いても書いても書き終わらないのが実際の所。やりがいがあるね。
 
 扉が開かれる。
 ふっと、ボクは顔を上げる。

「レイナート様、請求されていた資料ですが・・・あまり無理はしないで下さいね。お茶にしませんか?」
 厚い本と資料の束を持ってきたソフィーがボクと机の上を見て、顔を曇らせながら言った。ソフィーの方が無理していそうなのだけどね?
 いつでもソフィーの瞳の奥には、ボクを「心配」している色が光って見える。実際は、彼女の方があぶなかっしくて心配なのだけど・・・秘密にしておこう☆
 だってね、心配されるのはとても気持ちがいいことだから。その間、彼女はずっとボクの事を考えてるんだよ? 最高だね♪
 だから余計に心配かけたくなっちゃうんだよなぁ。
 
「あ・だから思い出したのかな」
「は?」
 ぽんと、手を叩く。納得したら楽しくなってきた。
 突然笑い出したボクに、ソフィーが怪訝そうな顔をする。
 
「ねぇ、ソフィー?」
「はい」
 不思議そうな顔をしながらも律儀に返事を返してくれる。
 
「当たり前のことだけどね。これからもずっとボクの側にいてくれるよね?」
「え? はい。レイナート様は何を次にするのか怖くて目が離せませんから」
 ボクもいけしゃぁしゃぁと自分で言う方だと思うけど、ソフィーも結構きっぱり言い切った。思わず、にっこり笑ってしまう。
「レ、レイナート様?」
 日頃からボクの笑顔に騙されている・・・と思っているらしいソフィーは、ボクから慌てて視線を外して会話から逃げようとする。
・・・今は早く言ったモノ勝ち。
「嬉しいな。ソフィーから良い返事がもらえて」
「は? え?・・・あの、今の会話が何か・・・」
 あっさりボクは白状する。
「結婚のお誘い兼、愛の告白だよ? 大好きだよ、ソフィー」
 ボクの、特上の笑顔で。
「・・・・・・・・・・・・」
「あれ? ソフィ〜?」
 バサバサっと、ソフィーの腕に収まっていた資料や本が床に散らばる。
「ほ、本気ですか・・・」
「冗談じゃ言わないよ♪」
「冗談に聞こえるんですけど(汗)」
 そんなソフィーの顔は耳まで赤く染まっている。
 
 彼女は、ボクの嘘と本当を見分けられるはずだ。だからこの言葉が真実だと実感してる。たとえ騙されて頷かされたとしてもね。
 
「私でよろしいのですか? レイナート様にはもっと貴族のご令嬢とかっ・・・」
 自分で言っていてソフィーの顔が辛そうに歪む。
 素直じゃないなぁ。・・・ボクも相当素直じゃないけど。でもボクにはソフィーの気持ちが伝わってくるからいいや。ボクが知っていれば、ハッピーエンドだからね。
「ソフィーだからボクは良いんだよ。それに・・・見知らぬお嬢さんにボクの性格見せたら、逃げるよ?」
 
−城出するわ、魔術の暴発楽しんでるわ、すんごい手に負えない部下がたくさんいるわ、見た目と年齢にギャップ有るわ、実は人を裏から操るのがスキだとか。とにかくエトセトラ。
 
「レイナート様・・・」
「こんなに将来成長株は落ちてないと思うよ? しかも城付き」
 くすくすソフィーが笑い出す。
「自分で言いますか。・・・でも返事しちゃいましたし、こうなったら一生レイナート様を見張っています!!」
 ソフィーの笑顔は、見ていてとても幸せになる。
「ずっと見張られてるのはやだなぁ・・・」
 
「昔からずっと、見張っていましたよ?・・・お茶の用意してきますねっ!!」
 爆弾発言を残して、ソフィーはお茶の準備のために去ってしまう。資料と本は散らかったままだ。かなり混乱していたらしい。代わりにボクが床に散らばった資料や本を片づけ始める。
 
 幸せだね。浮かぶのはウェインとティリスの結婚式の景色。
 2人とも幸せそうに笑ってた。
 
 あの景色の中の主役2人。
 今度はその主役に、ボクとソフィーの笑顔があるのかな?


 
 あるな。きっと。
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