> ギン×乱菊
ギン×乱菊
 
> ギン×乱菊 > これを狂気と呼ぶなら
2006/8/23
これを狂気と呼ぶなら
乱菊の好きなモン全て、ボクは嫌いや。
なァ、知っとった?
 
 
乱菊の目に留まるもの全部消せたらええのに。
乱菊の好きになった物、全部壊せたらええのに。
乱菊が見るもんはボクだけならええのに。
 
乱菊はどんどん視野を広げていく。
それに比例していくかのように、つぼみが大輪の花を咲かせるように、乱菊はどんどん綺麗になっていく。
 
昔のようにボクだけを見つめてくれればええのに。
それは酷く自分勝手な独占欲。
でもな、こんな思うのは乱菊にだけや。
だからあんたの好きなモン全てボクは嫌いや。
どうやったらいつもボクの事だけを考えてくれるんやろなァ。
 
せやけど、とうとうボクは見つけた。
乱菊を留める方法を。答えは、すぐ傍にあったんや。
乱菊とボク自身が答えを最初から持ってたんや。
 
それはどえらく簡単な事実。
 
ボクには乱菊しかいないように、
乱菊にもボクしかいなかった、と云う事。
 
一番てっとり早いのは、乱菊の生の時間を止めることなのやろうけど、乱菊を潰すことなんてボクには出来へんから、この方法に決めた。
ボクは、【乱菊】という存在が消えるまで永遠に、乱菊の中で一番てっぺんにいたいから。
 
あんたの好きなモン全て、ボクは嫌いや。
だから乱菊が一等好いてるボク自身すら憎い。
ボクがいなくなれば、乱菊はボクだけのものになる。
 
ずっと考えててや?
ずっと想っててや?
ずっと好きでいてや。
ずっと憎んでいてや。
ずっとずっとずっと忘れさせへんで?
 
うんとうんと好きにさせて、愛させて、突き放して、傷つけて、でもその心は放してなんてやらへん。
 
これを狂気と呼ぶなら、呼べばいい。
ボクにとってはたった一つの大事な真実。
ボクは実行する。どんな手を使こうても必ず実行する。
 
おしまいに乱菊の手にかかって死ぬ。
それはなんて至福な瞬間なのやろう。
 
 
 
あんたの好きなモン全て、ボクは嫌いや。
なァ乱菊、知っとった?
 
> ギン×乱菊 > 何処にいても何時でも
2006/8/31
何処にいても何時でも
はじまりとおわり。 
ギン乱はハッピーエンドが思い浮かばないから切ない。
けどその切なさが惹かれる原因の一つだと思います。

image song 「UNITY」 BENNIE K
「ラン。乱菊」
 名を呼ぶ。宝物のように、優しく甘く、めるように。
 自分の世界でたった一つ、色の付いているのは乱菊を中心とした世界だけ。そしてそれ以外、モノクロだろうが灰色だろうがギンにとってはどうでもよかった。
 乱菊の傍にいれば、モノクロの世界が一瞬で鮮やかに色づく。だから、他はどうでもいい。
 不思議に思う。乱菊と出会う前の自分は一体どうやって生活していただろうかと。
 ただ淡々と淡々と生きるためだけに毎日を過ごしていただけだった気がする。起きて殺して食べて殺して寝て起きて・・・それだけの繰り返し。別に悲しくも寂しくも嬉しくも楽しくもなく、一人で生きてきた。
 
「ギン」
 軽く呼ぶ。空気のように、呼吸をするように馴染なじんでいるその名を。あまりにも馴染みすぎていて、その存在がとても大切なものだという事さえ忘れてしまいそうだ。・・・それでもその存在は忘れるなんて出来ないもの。乱菊という名の人間の根本を作った最初の人。
 この世界に落ちたとき、世界は全て乱菊の敵だった。ただ逃げて逃げて、悔しくて悲しくて、ちっぽけで何も出来ない自分の不甲斐なさにまた悔しさがこみ上げてきて、そして世界と自分に疲れてしまった。「もういいや」と思った。
 けど、ギンに拾われて。もう少しこの世界と向き合ってもいいかな、と思った。
 
 
 2人一緒だったから歩いてこれた。お互い全てを別けあって笑って泣いて喧嘩けんかしてじゃれついて生きてきた。
 
 
「乱菊」
「ギン」
 お互い唯一無二の名を呼び合って視線を交わす。もうどれくらい時が過ぎてしまったのか。過去を思い出し、ひっそりと微笑ほほえんだ。
 
 フワフワとした金髪に気の強そうな大きな瞳、怒り出しそうな表情は相変わらず。
 サラサラとした銀髪に狐のような細い瞳、何を考えているか分からない表情は相変わらず。
 
 けれどあの頃の少年はいない。少女はいない。
 いるのは、根本は変わりはしないけれど、根本以外は全て変わった2人。
「ギン、あたしたち何処どこで間違っちゃったのかしら」
 まるで降り出した雨の最初の一滴のように、ぽつんとその言葉は世界に落ちた。
「乱菊は間違うてなんてないんよ。間違うてるのは全部ボクやから乱菊はなんも気にせえへんといてな?」
「あんたはいつもいつも・・・っそんなところが大ッ嫌いって何度も言ってるじゃない!!」
「そりゃ申し訳なかったわぁ。堪忍な」
 怒鳴る女と飄々ひょうひょうと流す男。変わらない、けれど変わってしまった。それが嬉しい悲しい。
 
「ギン、あんた何処に行きたかったの・・・」
 ふるふるとギンは首を左右に振った。
「最初から何処にも行きたい場所なんてなかったんよ」
 
 乱菊の隣以外。
 
 ぐっと乱菊が何かをこらえるように唇を強く噛み締めた。
「ボクな、出来れば乱菊の側にずうっといたかったわぁ」
 
 嘘吐き。
 
 声には出さない乱菊の非難の声。目線で伝わる。ギンはやわらかく苦笑し、クシャっと己の髪をなぜつけた。
「相変わらず信用ないなぁボク」
「・・・離れていったのはアンタからなのよ? 信じられるわけないじゃない」

 信じたい。
 信じてほしい。

 何処にいても何時いつでも、お互いの還る場所は分かっているのに。

 伝えきれない。
 伝わらない。
 
「本当に何処で間違ぉたんやろなァ・・・」
 切ないギンの声はいろどりある世界の空気に溶けて消えて。
 
 ああ、帰ってきたんだなと。
 ああ、追いついたんだなと。
 
 お互い斬魄刀ざんぱくとうを抜き放ち、笑いあって。 お互いを目指してただ前へ走り出した。
 もうこれで終わるから。還れるから。
 
 
「---唸れ、灰猫」
「---射殺せ、神鑓しんそう
 
 
 
 
 おかえり。
 ただいま。
 
 
> ギン×乱菊 > F分の1揺らぎ
2006/9/15
F分の1揺らぎ
幼少時代
 規則正しいアイツの心臓の音と、アイツに触れるだけで不規則になる自分の鼓動こどう。悔しいけどそれが一番落着くのはどうして。
 あたしと正反対で、憎らしいくらい冷静なコイツに聞いてもいいかな。
 
「ちょお乱菊っ! くっつきすぎやないのっ」
「別にいいじゃない」
「せやかて胸が! 乱菊ワザと胸押し付けてるやろォ・・・」
「大サービス。感謝しなさいギン」
「ら、乱菊がいぢめる」
「いじめてなんていないわよ? 手出したいなら出せば?」
 
 悔しい。コイツの心臓はどうなってるのよ。
 全然崩れないその鼓動に。
 悔しい。けど落ち着く。ああなんだか眠くなってきちゃうし。
 あたしの早鐘を打つ鼓動と冷静に時を刻むあいつの鼓動の音で、どんどんとあたしは眠くなる。
「眠い」
「いやいやいやいや!この状態で寝んなや!」
「おやすみギン」
 
 
 
「・・・・ホンマに乱菊はずっこいわ」
(そんな無防備に寝んといて。ボクが一番乱菊にとって危ない存在なんやから。)
「ボクが全部壊してまうよ?」
(乱菊全部べてまうよ?)
 
 悲しくなった。とても哀しい。
 
 乱菊に触れられると嬉しい。本当に嬉しい。とても落ち着く。まるではなばなれになっていたパーツが一つになったようで。だからそれが離れていってしまうと思うと、悲しい、寂しい。
 乱菊が触れてくれるたびに特大の嬉しさと、離れてしまう悲しさが襲ってくる。
 乱菊の心臓の音と、自分の心臓の音。それが交じり合ったこの瞬間で全てが止まってしまえばいいのに。
「ボクホンマに重症や」
 そんな気持ちを抱え眠れる訳が無い。けれども心地よい感触、振動、空気。
 どんなに悲しくても嬉しくても、本能には逆らえない。
 乱菊全てがギンにとって心地よいと思う全てなのだから。
 
 一番落着く。
 乱菊も同じなのか。いつか聞いてみてもいいだろうか。
 
 すうっと意思とは関係なく、滑り落ちるようにギンは眠りに落ちた。
 
 
> ギン×乱菊 > あたしだけを見つめて
2006/9/18
あたしだけを見つめて
 って、いつも思ってる。
 それだけでいいの。
 
 勝手に消えたっていいわ。
 何も話さなくてもいいわ。
 
 ただ、あたしだけを見つめてくれるなら。
 
 どんな場所にいてもいい。
 遠く離れてたって構わない。
 
 だから心を頂戴。
 あたしだけを見てて。
 視覚すら、空間さえも超えて。いつもそう思ってる。
 けれど何時からなのか、自分の言動は心とは裏腹に言葉を紡いで。
 
「どうだっていいわ」
 -嘘。
「大嫌い!」
 -嘘。
「触らないで」
 -嘘。
 
 嘘だらけのあたしの世界。
 でもただ一つの本当。
 
 
「乱菊は嘘つくのがヘッタクソやなぁ」
 そう言って、あんたはあたしにしか見せない顔で笑う。
 
 あたしはあんただけを見つめてる。
 だからギン、あんたもあたしだけを見つめて。
 
 
> ギン×乱菊 > 君と出会えたこの日に心こめて
2006/9/28
君と出会えたこの日に心こめて
 いつもと変わらない太陽がのぼって、
 いつもと変わらない日常が過ぎていっても。
 今日この日この時はどんな日よりも待ち遠しかった日。
 
 こんな広い世界に落ちて出会えた奇跡。
 
 
「乱菊誕生日おめでとお」
「ありがとう、ギン」
 お互いにコツンと額を合わせ、両手の平を重ね合わせた。
 「とくん」と伝わるお互いの熱。
 
普段は全然他人の振りやけど。
普段は全然話さなくなったけど。

 
今日この日この時だけは、全て出会ったあの頃に戻して。
 
 
 本当に、「ありがとう」
 ギンに出会えたこの日に心こめて。
 
 本当に、「ありがとう」
 乱菊と出会えたこの日に心こめて。
 
 
 
 世界にたった一人しかいない君に心こめて。
 
 
 
 


 HAPPY BIRTHDAY!!
 
> ギン×乱菊 > 甘い夢なんて見せないで
2006/10/12
甘い夢なんて見せないで
※少しだけ痛いお話です。痛い話が苦手な方は引き返して下さい。
ひまったらヒマったら暇すぎ・・・」
 寝床にうつ伏せでせっていた乱菊は、はぁと大きく深い溜息をはいた。
 窓からは燦々さんさんとした太陽の光が差し込み、わずかに見える空は雲ひとつない青空。
 それなのに乱菊は動かない。いや、動けないと言った方が正しい。
 うつ伏せで胸が少々(いやかなり)潰されて苦しいのだが、仰向けになれない訳があった。
 乱菊は背中の面にまんべんなく傷を負っていた。
 
 この怪我の発端ほったんを思うと「迂闊うかつだった」としか乱菊には言いようがない。まさか一度倒したハズのホロウが起き上がって、攻撃してくるとは思わなかったのだ。
 虚に背後を向けた瞬間に、無数の針のような刃が乱菊を襲っていた。
 全ての刃は貫通はしなかったものの、背中全体に傷を受けた乱菊は、かすむ視界の中でなんとか虚の止めを刺し、そのまま出血のためか気を失った。
 
 そして、現在に至る。
 
 背中の無数の傷は、4番隊隊長はな自らが治療をほどこし、深かった傷以外はほとんどふさがった。
 3日も休めば貧血も回復するだろうと卯の花に言われ、乱菊は仕方なく十番隊の自室で横になってはいるけれど。
 しかし深い傷は乱菊を仰向けに眠らせてはくれなかった。
「暇だわ痛いわ微妙に眠いわ・・・サイアク」
 この体勢で居続けるのにもいい加減肩が凝ってきた。
 外はあんなにも快晴なのに。
 しばらくボーっと窓の外を眺めて、それに飽きたのか、乱菊は枕に顔を押し当てて瞳を閉じた。
 
 
 
 軽く、夢を見ていたのかもしれない。
 
 
 優しくそっと乱菊の髪に触れるのは。
 愛しむように頬を掠める指は。
 全て、全て乱菊にとって違和感なく馴染む気配のもの。
 
 だから反応に遅れた。
 
 
「っっ!・・・くっ・・・ぁあああああ!!」
 突然襲ったあまりの痛みに、瞳を開けた乱菊だが、視界すらも痛みでチカチカと点灯する。
 
「あ、起きてもうたん? おはよう乱菊。お寝坊さんやね」
 そんな乱菊の悲鳴の中、まるで何事もないように掛けられた声。
 それはやはり乱菊にとって違和感なく馴染む、今はもう疎遠になった・・・市丸ギンの声で。
「・・・・っ・・・・ギ、ン?」
 声に反応して、そして乱菊はこの痛みを理解する。
 ギンが無造作に乱菊の背中に左手の指を押し当てていた。服越しに強く、強く。
 よりにもよって深い傷の部分を。
「手っどけなさい、よっ」
 あまりの痛みに口調がよく回らないながらも、キッっと横にいるギンに鋭く視線を上げる。
 ギンは普段通りの何を考えているかよく分からないキツネ顔で、にぃっと深く笑う。
 けれど僅かな市丸の感情に乱菊は敏感に反応した。
(苛立ち?)
 
「イヤや言うたらどないするの?」
 くすくすとギンが哂う。
 言葉よりも先に乱菊の腕がギンに勢いよく伸びる。ギンに背中を押さえつけられていて動けない、だから精一杯の反抗。
 パシっと、その反撃はギンの右腕によって遮られる。
遮られた指は、ギンが優しく優しく握り締めた。まるで宝物を扱うように丁重に。
 けれど。
「・・・・・くっ」
 背中に置かれた長くて骨ばったギンの左指は、まるで別もののように荒く乱暴に乱菊の背中を押さえつける。
 じわりと、背中の傷口が開いて血が寝巻きに滲むのが分かった。
「らんがいけないんよ? ボクの見てないトコで傷なんつけるんやもん」
 哂った表情のまま、ギンが乱菊の顔を覗き込んで呟く。
「・・・・っあんたにっ・・・そんな事言われる筋合いなんて、ないっっ!」
 
 自分から突き放したくせに。
 自分から離れたくせに。
 自分から消えたくせに!
 今更そんな奴に所有物のように心配されたって嬉しくなんてない!
 
 背中の圧迫が無くなった、と思った瞬間。くっっと襟元が緩められて、着崩されていた着物はあっけなく腰まで引き下ろされた。
「・・・っ」
 傷だらけの素肌に、空気がひんやりと触れる。
 ギンは全ての傷、一つ残らず見逃さないかのように乱菊の背中に指を辿らせる。先ほどとは打って変わって、その行為は優しく、時々走る痛みさえも甘く。
 この指先から伝わる温度は何を伝えたいのか、伝えたくないのか。
 流すまいと思っていた涙が、あっけなく乱菊の頬から転げ落ちた。
「なぁ乱菊、泣かんで?」
 自分勝手な男にますます嗚咽おえつは止まらなくなる。
 こぼれる涙をぬぐう様に、ギンが乱菊のまぶたに唇を寄せる。
「・・・あんたなんて・・・大嫌い、よ」
「うん、知っとるよ」
 嬉しそうに寂しそうにギンが頬を寄せたまま微笑んだ。
 
 
 優しくそっと乱菊の髪に触れるのは。
 愛しむように背を掠める指は。
 全て、全て乱菊にとって違和感なく馴染む気配のもの。
 そして一番、遠くなってしまったもの。
 
 自分から突き放したくせに。
 自分から離れたくせに。
 
 
 それでも。
 
 
 それでも。
 
 
 あたしが忘れられない唯一の。
 
 
> ギン×乱菊 > 甘い夢なんて見せないで > アマイユメナンテミセナイデ
2007/1/17
アマイユメナンテミセナイデ
※少しだけ痛いお話です。痛い話が苦手な方は引き返して下さい。
「甘い夢なんて見せないで」から続いております。
 腕の中で眠ったのか、気を失ったのか、静かになった乱菊をそっと布団に寝かせ直し、ギンは静かに外に出た。
 昼間、あんなにも晴れていた外はいつの間にか暗闇になっており、空気はきんと冷えギンの吐く息も白くなる。吐いた息に視線をやり、そのまま軽く跳躍ちょうやくし隊舎の屋根に腰掛ける。
 
 この建物に居る、大切な大事な人をどうやったら守れるのか。その答えは今でもギンの中で出てこない。
 ただ今この瞬間に自分が彼女に出来ることを為すだけ。たとえその行動によって彼女の傍に居られなくとも。そう思って行動してきたけれど。
「らんが怪我する時にいっつもそばにおられへんのはキツイなあ」
 はははと空笑いがギンの口からこぼれる。
 ひとしきりカラカラと笑って、ギンは神鑓しんそうを腰から引き抜くと、無造作に瓦に手をつけた左手を差し貫いた。手の向こうの瓦も同時にガシャンと鈍い音を立てて半分に割れる。
「右手はらんを守る手やから左手で堪忍しはってな」
 ザクザクガシャガシャと何度も神鑓を左手に突き立てる。 痛みも、飛び散り流れ出す血もまるで他人事のように行為を続ける。
 しばらくして、まるで自分に飽きたようにポイと神鑓をギンは手放した。そのまま瓦に大の字で寝そべり、瞳を閉じる。
 やたらに熱い左手と、それに反比例していくように冷えていく身体と。
「このまんま・・・ぜぇ〜んぶ放り出して眠れれば楽なんやろなぁ・・・」
 けれどそんな事は出来ないと、ギンには分かっている。
 
 
 
 
「・・・・バッカじゃないの」
 
 
 
 
 少し意識を飛ばしかけたギンの耳に、するりと流れ込んできた声。
 
「ううん、あんた本当の大バカだわ・・・っ!」
「ら、ん・・・ぎ・・・く・・・・・?」
 感覚すらもう感じなくなった左手に、それでも乱菊の手が触れるのを、ギンは確かに感じ取っていた。泣き叫びたくなるくらいにやさしいあたたかさ。
 乱菊は自分の着物の袖を引きちぎると、手早くギンの左手に巻いていく。
「本当に馬鹿。大馬鹿。あたしよりもヒドイ傷作ってどうすんのよあんた明日も仕事で一応隊長じゃないの早く起きて卯の花隊長に診てもらいなさいよ!」
 息継ぎする間も惜しむように一気に乱菊は言葉を爆発させた。
 は、と微かにギンが笑いをこぼす。
「・・・らんが心配してくれはるなんて、天変地異でも起ったんかなァ・・・」
 ひくひくと乱菊の眉間みけんしわがよる。
「ギンあんたねぇ・・・っ!」
 怒鳴ろうと思った声は、身体と一緒にその長い腕に絡め捕られる。
「・・・・・こんな甘い夢、みせへんといて・・・」
「・・・ギン」
 困惑して泣きそうな乱菊の声が、ギンの胸に吸い込まれていく。
 ぎゅうっときつく乱菊を抱きしめて、普段の笑顔などからはまるで想像できない表情で幸せそうにギンは微笑む。
「乱菊、これは夢なんよ?全部全部今だけの・・・・」
 とん、と軽く乱菊のうなじに手套しゅとうを下ろす。
 一瞬大きく瞳を見開いた乱菊はすぐに意識を手放した。
 
 乱菊をもう一度しっかりと抱きしめて、次にギンが面を上げたときには3番隊隊長、市丸ギンの表情が戻る。そうして何もなかったかのように、2人の姿は屋根の上から消えたのだった。
 
 
 
-アマイユメナンテミセナイデ
 
 
 突き放した意味がなくなってしまうから。
 離れた意味がなくなってしまうから。
 
 嫌いになってと叫ぶ自分と。
 嫌いになんてならないでと叫ぶ自分と。
 矛盾した感情と行動、制御できない自分自身。
 
 いっそ全て忘れてしまえればいいのに。
 
 
 それでも。
 
 
 それでも。
 
 
 ボクが絶対に忘れへんやろう唯一の。
 
 
> ギン×乱菊 > 何気ない仕草で
2007/8/18→2008/11/1加筆
何気ない仕草で
幼少時代
「葉っぱついとるよ」
 
 伸ばされた長い腕、長い指。それはいつも当たり前のように側にある気配で、当たり前に受け入れた。伸ばされた指が髪に触れる感触。
「うわちょお乱菊! どこほっつき歩いてきたん。ちみこいゴミもつきまくッとるよ!」
 正面に視線をやれば、丁度ギンの口元に目線の高さが合った。
 
「うー」とか「ああー」とか、情けない声が漏れている。
 
---いつのまに、ギンはあたしの身長を追い越したんだろう。全然関係ないことを思いながら、自分の口は上の空で言葉を紡ぐ。
 
「別に、そこら辺の雑木林くぐってきただけ」
「乱菊の綺麗な髪が台無しや」
 なんだか悔しそうな悔恨を感じる声音。あたしの髪なんだけど。
 頭上でせっせとゴミを取る気配を感じる。
 
「ああようやっと取れた」
 口元に満足そうな笑みが浮かぶ。思わず自分まで釣られて笑ってしまう。
「ありがとう、ギン」
 そう言えば少し身をかがめたギンが
「どういたしまして、や」
と応えて、あたしにしか判断できないであろう嬉しそうな表情で笑った。
何しろコイツはいつでもニセ笑顔が張り付いているから分かりにくい。
 
 伸ばされた長い腕、長い指。それはいつも当たり前のように側にある気配で、当たり前に受け入れた。
 長い指はあたしの顔のすぐ脇を通って、耳元の髪を耳にかけた。
「・・・・っ」
 電流のように、身体に痺れが走った。それは、もどかしいような甘いような切ないような痺れ。
 耳に触れたギンの指が熱い。違う、自分の耳が熱い。
「乱菊?」
「なんかムカツクわ」
 あたしだけこんな反応してバッカみたい!
「へ? ええと乱菊サン…?」
 男が小首を傾げる仕草は正直どうなのよ。その仕草にまた無性にイライラがこみ上げてくる。ギンに反応する自分に、それとは逆に全く何も思っていないであろうコイツの態度に…八つ当たりなのは分かってる。けど。
「後悔しても遅いからねギン!」
 いつかコイツを振り回せるくらいの女になってやろうじゃないの。
 
「らんの言葉の意味がわからへんっ…ボク、ボク捨てられるんっ!?
 いやや捨てんといてっっ」
 突然腰にすがってきたギンの反応にいつもの自分が戻ってくる。
「ちょ、放しなさいよっっ。くすぐったっっあはははははっ!」
 
 二人の笑い声は燦々とした木漏れ日の中に吸い込まれていった。

 
 
> ギン×乱菊 > 始
2008/1/1
「あ゛あー…喉渇いた…頭痛い…」
 寝覚めは最悪。大晦日に皆と騒いだせいか、すこぶる二日酔いだ。
 よく自分の部屋にまで帰ってこれたなァとしみじみしながら室内に目を向けようとして…さらりと額の髪をかき上げられて、触れる唇の感触。

「あけましておめでとお」
 そして間延びしたあいさつ。
「って…ギン?」
 聴き慣れた声に反応。また勝手にあたしの部屋に入ったわねこの男。
 ガバっと布団から起き上がって激しく後悔。
 
「…ぎもぢわる…」
 そのまま身体を九の字に曲げて布団に撃沈。
 これはかなり…飲みすぎたみたい。
「あ〜あ、飲みすぎやねぇ」
 けらけらと笑う声が伏せている頭上から聞こえてきてかなりムカツクけれど、反論も出来ないくらい気持ち悪い。
 ゴソゴソとギンの動く気配。
「ほら、らん。面あげて」
 くいっと顎にかけられる長い指。それは自然にあたしの顔を上に向けさせる。

「な゛によ?…っ…ん…んん」
 重なる唇。

 開けてるのか閉じているのか解からない瞳と、真っ直ぐでさらさらな銀糸の髪に白い肌、それが間近にあった。そして有無も言わさず歯列を割られて喉に流し込まれる水。思わずゴクンと飲み込んでしまう。
 それが目的であっただろうギンの唇は、ぺろりとあたしの下唇を一舐めして離れる。舐める必要はないでしょバカギツネ。

「新年から最悪…」
 少しだけ潤った喉からようやくまともな声が出る。
「ボクには最高のはじまりやけど?」
 にぃっと口の端を上げてギンが微笑む。

 ヤバイ。
 
 この笑顔の時のギンは絶対!何かあたし関連で企んでる時。
 逃げろ逃げろと心が警鐘を鳴らす。
 けれど顎に回された指は外せそうにもない。
 またギンは顔を近づけてきて、今度は耳元で囁く。
「なあボク、二日酔いで撃沈してる乱菊でも大好きやよ。
 百年の恋も冷めへんねえ」
 深く抱き込まれる。
「っ離せバカ狐っっ」
 もがいても無理。
「や ぁ だ 」
 またけらけらとギンは笑って。
 思いっきり問題発言を投下した。

「乱の姫はじめチョーダイ?」

「ちょ、離せっ! エロオヤジくさいわよギンっ!!」
「そらもういい年ですもんー。乱も同い年やん〜」
 さらりと流されて。そして二日酔いの所為で動くたびに力が抜けていく悪循環。
 
「今年もヨロシクしてなあ、乱菊」
 
 そしてあたしの反論の言葉と二日酔いの息はあっさりと封じ込められたのだった。
 
 
> ギン×乱菊 > 「君にお題」
「君にお題」
 
> ギン×乱菊 > 「君にお題」 > ぼくはぼくだ。そう言ってくれたのは君だけ
2006/9/22
ぼくはぼくだ。そう言ってくれたのは君だけ
幼少ギン
 昔っから、表情を変えるんが苦手やった。
 ちょっと相手の気持ちを油断さすんに笑顔はうってつけで、気が付いたら常に笑ろてる表情が張り付いて板についとったなァ。
 どんなことがあっても笑うとったもんやから、逆に『可愛げがない』『薄気味悪い』とかよう言われて「そりゃあえろうすんまへん」ってカンジやね。
 
 せやけどあの娘だけは特別変わった神経を持ってたんやね。
 やって『笑ってようが笑ってなかろうがあんたはあんたでしょ』とか言いなはるんやもん。
 えらいびっくりした。そんなん言われたん初めて。
 なんやこそばゆいけど嬉しいなあ。
 
「ボクもどんなけったいな顔の乱菊でも好きやで」
 えらく感動して返した言葉は、その娘にはよう通じんかったみたい。
『けったいは余計よバカギン!』
 
> ギン×乱菊 > 「君にお題」 > 薄汚れて、千切れても君だけのものでいたかった
2006/9/25
薄汚れて、千切れても君だけのものでいたかった
「ギン! あんたはまた・・・っ!」
 ひゅうっと乱菊は苦しそうに息を飲む。そうして、泥だらけ傷だらけ血だらけのギンの身体にそっと指先を伸ばした。
「大丈夫やよらん。ボク全然痛たないよ?」
 乱菊の指先を目で追いながら、いつも通りの笑顔で笑えばパン!と頬に熱い痛みが走る。乱菊にひっぱたかれた事に、ギンは特に驚くことはなく、へらっと微笑んだ。うつむいてしまった乱菊の太陽のような鮮やかな髪がギンの腕にさらと触れた。
「・・・あたしが原因でギンが傷つくの嫌なのよ」
「せやかて、乱菊。あいつら嫌がる乱菊殴ったやないの」
 ボクの大切な乱菊に。
 
 ギンは無差別に人を殺したりする人間ではなかったけれど、乱菊に害をなす者と結論を下すと、どこまでも冷徹な殺人鬼になった。そうして、乱菊の決して目に触れぬ場所で全てを終わりにしてきてしまう。その度に乱菊は激怒して、ギンのいない場所で一人泣いた。
 そんな乱菊を知ってはいたけれど、決して自分の行動は変えはしないだろう。
 乱菊の気持ちなんて二の次で・・・ボクが嫌なんやもん。
 そうボク自信が嫌なんの。乱菊がボクん中で大切すぎて、この気持ちと行動は、例え乱菊にだって止められはしない。
 負い目でもなんでもいいから、乱菊と自分を繋ぐ何かが永遠にあればいい。それはどんどんどんどん、自分たちの見た目に差が出てくる度に黒く大きくなっていく。
 
 こんな汚い自分を乱菊に見せたくなかった。
 だから、乱菊から距離を置いた。そうして、そんな時にギンは出会ってしまった。自分の黒い部分と同じ、いやそれ以上の死神に。
 この死神はきっと、いつか乱菊に害をなすかもしれない。自分の力では敵わない。本能的に悟った確信。
 ならば、この人物の傍にずっといようと決めた。乱菊に決して近づかさせないように。乱菊を危険から離すために。
 
 片手で顔を覆い、カラカラとギンは笑った。
「何を思いだし笑いしているんだい、ギン?」
「ああすんまへん。昔んコト思い出してもうて」
 顔から片手を外し、もう片手に握る神槍を無造作に薙ぐ。びしゃっと地面に深紅の液体が飛び散った。
 
「ほう、なんだい?」
「どーでもええことですわ。ガキん時もやっぱりこないに殺したなァおもただけです」
 にぃと笑みを深くする。辺りは机に伏した血まみれの人だったモノばかりであった。
 
 
 ずうっと傍にいたかった。薄汚れて、千切れても君だけのボクでいたかった。
 けれどもう、引き返せない。戻れない。戻る気も無い。
 ただ、乱菊が、君が、幸せであれと、それだけを。
 
 
> ギン×乱菊 > 「君にお題」 > 強くなりたい。強くて弱い君を守れるように
2006/10/3
強くなりたい。強くて弱い君を守れるように
「薄汚れて、千切れても君だけのものでいたかった」のギンの行動に気が付いた乱菊さんっぽく。
【ギンの行動する意味はほとんどあたしの為だった】
乱菊ねえさんはスルドイ人だと思ってます。 
『 さいなら 乱菊 』
 
 部屋に一人で居ると、ギンの事を思い出す。ギンの事を考えると記憶は決まって終結するかのようにあの場面へと戻る。
 あの時手離してしまったギンの腕。言葉もなく見つめてしまったギンの横顔。
 
「・・・今更別れのあいさつしなんてしないでよ・・・」
 頭の中に何度も何度も鮮明に繰り返される言葉。頭痛すらしてきて、眉間に寄った皺を指でほぐすように押さえてみる。もう随分と昔にギンにとってあたしは【興味がないもの】に分類されたんじゃなかったの?
 
 
『 ご免な 』
 
 突然ストンと、今頃急にその言葉はあたしの胸に染み渡った。
 普段は全くといいほど感情を表に出さなかったアイツが、あの時だけは昔みたいにあたしの名を呼んで。
 
 ・・・あたしは何か見落としているんじゃないだろうか。
 とても大切なギンという存在について何か。
 自分のことよりも、いつもいつもあたしを優先させたギン。
 そんなの嫌だと、やめてと言ってもあたしの為に傷ついたギン。
『これだけは一生譲れへんよ』 
 肝心な事は何一つ言わない、強くて自分勝手なアイツ。
 だけど。 
 
「あたしの【何】に対して謝ったの、ギン」
 世界が、急に開けた気がした。
 

『さいなら、乱菊。ご免な』
 
「詰めが甘いのよホント」
 強くて、けれどもアイツが見せた一瞬の弱さ。
「さよならなんて聞いてやんないわ」
 
 見てなさい。すぐあんたのいるソラまで手を伸ばすから。
 すぐに手を掴んでやるから。
 
 そしたら今度こそ、絶対に離さない。
 
 
> ギン×乱菊 > 「君にお題」 > 命なんて安いものだと思ってた僕が、君の命は何にも代えられないなんて。
2006/10/8
命なんて安いものだと思ってた僕が、君の命は何にも代えられないなんて。
 こんな場所にちっさい子供一人生き抜いてくんには、ふつうのガキじゃ生きられへん。だからボクは生き抜いてこれたんかもね。
 やってボク、なあんにも感じひんし。
 殴られても怪我しても笑っとったし、仏さんは見慣れてもうて何にも思わへんし、この世界にいるもんは自分と同じものやと思ったこともサッパリないし?
 ボクが生きてくんにジャマやったら殺すだけや。
 きっとずうっとこんなカンジで生きてくだけやと思ってたんよ。
 
 それなのに。
 
 乱菊といる時、ボクは普通の子供になってまうね。
 乱菊といるとボクの世界は一変する。
 ボクの世界に君という存在が、存在している事に気が付く。
 
 この世界にいるもんは自分と同じものやと思ったことなんてなかったんに。
 命なんて安いもんやと思ってたんに。
 乱菊を失うことを考えるだけで恐怖に駆られる自分がいて。
 
「乱菊、ボクの乱菊」
 
 こんなにも君の命が愛しいなんて。
 君の存在が愛おしいなんて。
 
 ああ、だけれども。
 世界が破滅するのが止められないんなら、ボクは率先して乱菊をこの手にかけよう。乱菊には綺麗な世界だけ見ていて欲しぃから。
 今はまだ、破滅へのほんの第一歩。
 
 世界が破滅するのが止められないのならば、ボクは率先して乱菊をこの手にかけよう。君の命は何にも代えられへんから。世界すら対価に値せぇへんから。
 壊すなら、全てボクの手で終わらせよう。
 今はまだ、君を遠ざけるだけ。
 
 
「・・・もしもこの破滅の流れが変えられるんやったら・・・」
 
 
 
 
ボクが消えてもこの世界で幸せになったって、愛しい人。
 
 
> ギン×乱菊 > 「君にお題」 > さよなら、とあっさり言うあんたをあたしは。
2006/11/24
さよなら、とあっさり言うあんたをあたしは。
幼少時代
-この手を離せばもう会えないよ。
 
 分かってた。なんとなく分かってた。
 いつか来るんじゃないかと感じてた。
 子供心になんとなく分かってたの。
 
 笑顔で送り出してやる事なんて出来なくて。
 寝た振りくらいしかできなくて。
 今までギンがあたしの側にいてくれただけで、それだけで嬉しかった。
 幸せだった。
 だから逃げ出さず、ただ現実を受け止める。緩めた手からあたし以外の温度が離れていくのも、囁いてくれたその言葉も全部受け止める。
 
-この手を離せばもう会えないよ。
 
「・・・さいなら、乱菊。ボクの側にずっといてくれはってホンマありがとぉっ」 
 優しく、本当に優しく頭を撫でて、ふとんをきちんと掛けなおしてくれる。
 それは、離れていく人間が言う言葉じゃないでしょう。
 それはあたしが言う科白だわ。
 
 今まであたしの側にいてくれてありがとう。
 もう一度掴んでしまいそうになる自分の腕を必死に留めて、離れていく温度に。
 
 また会いましょう。
 
 また会いましょう。
 
 嗚咽をこらえながらそう心の中で唱え続けた。
 
> ギン×乱菊 > 小話
小話
 
> ギン×乱菊 > 小話 > 9月
9月
「乱菊誕生日おめでとお」
「ありがとギン。ところでギンの誕生日はいつなの」
「あー・・・いつだったやろ。忘れてしもたなァ」
「忘れたって。もう、とっとと思い出しなさいよ」
 
---しばらくお待ちください。
  
「信じらんない! もう過ぎてるじゃない!!(怒)」
「まあええやないの。乱菊の誕生日の方がボクは大事やし」
(乱菊とボクが出会えた大切な日やし?)


 
 
「・・・・あたしはあんたの生まれた日も大事なのよ(ぼそり)」
 
> ギン×乱菊 > 小話 > ソウルキャンディー
ソウルキャンディー
「あれま、こらもしかして」
「・・・ただのソウルキャンデイー。
 灰猫とおそろいで猫にしてみただけだからね!!」
 
 
「へぇ〜。・・・これ《ギンノスケ》ゆうんやよね」
 
「・・・・・」
 
「・・・・・」
 
「・・・・・」
 
「ちょ、無言で足踏まんといてや!」
 
「だまれバカキツネっ!」
 
 
> ギン×乱菊 > 小話 > 悩む
2007/1/19
悩む
「らーん? もしもし乱菊さ〜ん?」
 
「・・・・・・・」
「あらま。こらよく寝てはるねぇ。ぎょーさん食いモン収穫できたんやけど」
 
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ギン・・」
 
 
「っ・・・それ反則やろ。ボクにどないせいいうの・・・」
  
 
> ギン×乱菊 > 小話 > こっち向いて
2007/2/13
こっち向いて
「なぁらーん、乱菊、いい加減こっち向かへん?」
 乱菊の背中は『怒』の一文字が見て取れるけど、ボクはそれを無視して声をかける。これで6度目。
 
 ぷいっと、乱菊は明後日の方向にそっぽを向く。
 そんな横顔もやっぱり可愛いかったん。
 メロメロやなァ、ボク。
 
 

「ギン! あんた本当に反省してるのっっ!?」
 
 あ、嬉しいこっち向いたわぁ。
 
 
> ギン×乱菊 > 小話 > 理想と現実
2007/2/2
理想と現実
《貴方は男性の理想がとても高いようです。
 寂しがりな貴方にはいつも側にいてくれる献身的なタイプの男性が・・・》
 
 
 読んでいた雑誌にそんな診断が書いてあった。
 座っていたソファーにぽいっと雑誌を広げたまま置いて、しばし思案。

(まあ確かに理想は高い方かもだけど。
 そんな理想なタイプが簡単に身近に転がってるわけないじゃない?)
 
 うーんと唸り、ぱったっりとソファーに寝転がった。理想の相手と好きになる相手が必ずしも同じな訳ないじゃない。
 一瞬、飄々としたアイツを思い浮かべてしまって、慌てて思考を分散させる。
 
『ほら、理想からは程遠い』
 自分の奥で自分が苦笑しながら呟く。
 
 けど、だけど、それでも、
 
 
 
「現実って厳しいわ」
 
 
 
 
 好きなんだものしょうがない。
 
 
 
> ギン×乱菊 > 小話 > ワルツをあなたと
2007/9/18
ワルツをあなたと
「ボク乱菊の舞い好きやなァ」
 アイツは熱心にアタシを見つめてくれたから。
「そう?」
 どんな汚れた布でも良かったのよ、それをまとってアタシは見よう見まねでくるくる舞った。
 アイツが静かに、笑顔さえ潜めた穏やかな顔で見ていてくれるのが気持ちよくて、舞っている間は絶対にアイツはどこにもいかなくて。
 舞台側も1人。観客も1人。面白いくらいにアンタの心もアタシの心もまっさらで、まるで二人心の中で手を取り合って踊っているようだったわね。
 
 今アタシの手元にはたくさんの着物があるわ。
 それを着て時々舞うの。見てくれるヤツらは全員褒め称えてくれる。けれど多くの人の喝采を受けても、もうアンタを引き止められる枷にはなり得なくて。
 色とりどりの着物も宝石もたくさんの喝采も、今はもう色褪せたものにしか見えなくて。
 ただ何時ものクセのように、アンタの好きだった舞のためにアタシは着物を買う。そして1人で舞うの。

 もういない、たった一人の観客のために。

 二人、踊っていられたあの時のように。
 
 
> ギン×乱菊 > 小話 > 捉えた
2008/10/10
捉えた
 虚圏へと繋がる黒腔。その大きく開いた裂け目に佇む破面達。
 一番巨大な黒腔にいる3人に、乱菊の視線はカチリと定まっていた。
(早く出てきなさいよ…!)
 愛染の奥に控える市丸に、今なら睨み殺せそうだと言わんばかりの視線を送る。
 言いたい事や殴り倒してでも問い詰めたい事がたくさんある。簡単にはいかない事も理解している。
 
 仮面のような笑顔を貼り付けた市丸が、その笑みを深くした。
 「待ってはるよ」と乱菊に言わんばかりに。
 
> ギン乱以外のもの
ギン乱以外のもの
 
> ギン乱以外のもの > とめどなく溢れる清水のような
2006/8/23
とめどなく溢れる清水のような
喜助×夜一
 とても慣れた霊圧を感じて、ふっと浦原は書き事を止め顔を上げた。風を取り込むために開けておいた障子窓の縁、そこに月を背景にトンと佇む1匹の黒猫。
 
「夜一サン」
 少し目を見開いた浦原に、黒猫は「にゃあ」と一声鳴き、当たり前のように浦原の膝の上に飛び乗った。
「どうしたんですこんな真夜中に」
 そっと黒猫の艶やかな毛を撫でる。黒猫は嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし、浦原の腹部に顔を擦りつけた。
 
「仕事帰りじゃ。なんとなくお前が起きているかと思ってな」
 そう返事が返ってきた時には、腕の中には猫の姿ではない、人の重みとなった夜一の姿があった。にっと夜一は口の端を心なしか上げて微笑む。
 美しい褐色の肢体を惜しみもなく浦原の前にさらし、両手を浦原の頭部に回し軽く抱きしめる。
「もの凄く久し振りですね、夜一サン」
 夜一の肢体にうろたえる事もなく、浦原はむしろ楽しそうに夜一の髪一房を手に取り口づけた。
「そうじゃのぅ、3月程振りかの」
 さらりと、会っていなかった日数を口にし、
「喜助が儂の事をそろそろ恋しくなる頃かと思うてな」
 自信に満ち溢れた、聞き様によっては傲慢な言葉を囁く。
 しかし、夜一が紡ぐ言葉はからりとしていて、嫌な気分など全くしないから不思議だ。
(普通これって男が言うセリフですよねェ)と、浦原の頭に過ぎりはしたが、
「夜一サン、男前」
 浦原は呆れるどころか逆に感心したように言い、へにゃぁっと表情を崩した。
 それを見て、イタズラが成功した子供のように、嬉しそうに夜一は笑った。
 
 このからっとした気質の彼女だから、浦原は惹かれたのかも知れない。何にも縛られない、捕らえられない夜一だからこそ。
 この気持ちは一言では片付けられないと浦原は思う。まるで滾々と湧き出す清水のような、決して止まることはないこの心情は、なんと言えばいいのだろう。
 言葉に出して伝えることは出来ないけれど、この熱から伝わればいいと、浦原は思った。
 
「ねェ夜一サン。全身全霊で伝えますから」
 主語の抜けた浦原の言葉に夜一は、 
「そんな事等の昔に知っておるわ」
 
そう言って、浦原の額に口付けを送るのだった。
 
 
> ギン乱以外のもの > 夏の思い出
2006/9/15
夏の思い出
日番谷+乱菊+織姫
 現世の夏は尸魂界よりも格段と暑いと思う。
 ギラギラと射す日の光も、ジリジリと焼けるようなアスファルトの地面も、ミンミンと声高く鳴くセミの音もざわめく人の熱気も、尸魂界と比べるべくもない暑さと騒音で、身体中じわじわと汗が出てくる。
 しかしそれとはまた別の汗が流れてくるのを日番谷は感じていた。
 
 
 
「なぁ松本」
 隣にいる自分の副隊長に極力静かに話しかけた。
「なんでしょ隊長?」
 視線を少し動かして、松本は日番谷に返事を返した。その姿はいつもとは違い、こちらの世界でいう【こうこうせい】なる職業の服装をしており、『自分もそうだったな』と日番谷はぼんやり思った。
 
「たいちょー?」
 ひらひらと目の前で両手を振られ、自分の意識が一瞬飛んでいたことに気が付く。
「冬獅郎くん大丈夫?」
 視線をずらせば、屈み込んだ織姫と目が合う。にこにこと微笑む織姫にガクリと力が抜けるのを日番谷は感じ…いつもの訂正を入れる。
日番谷隊長、だ!……そもそも、なんで俺達は【こんな所】にいるんだ」
「そりゃああれですよ隊長。せっかく織姫が現世を案内してくれるって言ってるんだから来なきゃ損じゃないですか!」
 手を腰に当てて、当たり前の様に松本は言い放った。
「だからってな・・「あ、申し訳ありませぇ〜ん」」
 突然割り込まれた声に3人とも顔を上げた。何かの案内員だろうか、現世で言う【すーつ】を着込んだ女性が、申し訳なさそうに3人に話しかけてきた。
 
「大変申し訳ありませんが、このアトラクションにご乗車になるにはそちらのボクちゃんの身長が少し足りないようです」
 本当に申し訳なさそうに女性は言い、「ごめんねボク〜? 飴あげるから許してね〜」と言って日番谷の手に飴を握らせた。
・・・大きな七色のグルグルキャンディーだった。
「わあおいしそうだね〜♪」
 はしゃぐ織姫と、渡されたグルグルキャンディーをワナワナと震える腕に握り締めた日番谷。
「っっくあはははは! ちょ、もう駄目笑い死ぬ!!」
 
 そう3人は遊園地に来ていたのです!
(しかもジェットコースターに並んでいたらしい)
 
「 ぜ っ て ぇ ぇ 帰 ぇ る ! 」
 日番谷の怒りに震えた叫び声と、
「 ダ メ で す ( 笑 顔 ) 」
 松元の本当に楽しそうな笑顔が印象的だった、
 
そんな夏の日の思い出。
 
 
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