「あ゛あー…喉渇いた…頭痛い…」
 寝覚めは最悪。大晦日に皆と騒いだせいか、すこぶる二日酔いだ。
 よく自分の部屋にまで帰ってこれたなァとしみじみしながら室内に目を向けようとして…さらりと額の髪をかき上げられて、触れる唇の感触。

「あけましておめでとお」
 そして間延びしたあいさつ。
「って…ギン?」
 聴き慣れた声に反応。また勝手にあたしの部屋に入ったわねこの男。
 ガバっと布団から起き上がって激しく後悔。
 
「…ぎもぢわる…」
 そのまま身体を九の字に曲げて布団に撃沈。
 これはかなり…飲みすぎたみたい。
「あ〜あ、飲みすぎやねぇ」
 けらけらと笑う声が伏せている頭上から聞こえてきてかなりムカツクけれど、反論も出来ないくらい気持ち悪い。
 ゴソゴソとギンの動く気配。
「ほら、らん。面あげて」
 くいっと顎にかけられる長い指。それは自然にあたしの顔を上に向けさせる。

「な゛によ?…っ…ん…んん」
 重なる唇。

 開けてるのか閉じているのか解からない瞳と、真っ直ぐでさらさらな銀糸の髪に白い肌、それが間近にあった。そして有無も言わさず歯列を割られて喉に流し込まれる水。思わずゴクンと飲み込んでしまう。
 それが目的であっただろうギンの唇は、ぺろりとあたしの下唇を一舐めして離れる。舐める必要はないでしょバカギツネ。

「新年から最悪…」
 少しだけ潤った喉からようやくまともな声が出る。
「ボクには最高のはじまりやけど?」
 にぃっと口の端を上げてギンが微笑む。

 ヤバイ。
 
 この笑顔の時のギンは絶対!何かあたし関連で企んでる時。
 逃げろ逃げろと心が警鐘を鳴らす。
 けれど顎に回された指は外せそうにもない。
 またギンは顔を近づけてきて、今度は耳元で囁く。
「なあボク、二日酔いで撃沈してる乱菊でも大好きやよ。
 百年の恋も冷めへんねえ」
 深く抱き込まれる。
「っ離せバカ狐っっ」
 もがいても無理。
「や ぁ だ 」
 またけらけらとギンは笑って。
 思いっきり問題発言を投下した。

「乱の姫はじめチョーダイ?」

「ちょ、離せっ! エロオヤジくさいわよギンっ!!」
「そらもういい年ですもんー。乱も同い年やん〜」
 さらりと流されて。そして二日酔いの所為で動くたびに力が抜けていく悪循環。
 
「今年もヨロシクしてなあ、乱菊」
 
 そしてあたしの反論の言葉と二日酔いの息はあっさりと封じ込められたのだった。
 
> ギン×乱菊 > 始
2008/1/1
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