何気ない仕草で
幼少時代
「葉っぱついとるよ」
 
 伸ばされた長い腕、長い指。それはいつも当たり前のように側にある気配で、当たり前に受け入れた。伸ばされた指が髪に触れる感触。
「うわちょお乱菊! どこほっつき歩いてきたん。ちみこいゴミもつきまくッとるよ!」
 正面に視線をやれば、丁度ギンの口元に目線の高さが合った。
 
「うー」とか「ああー」とか、情けない声が漏れている。
 
---いつのまに、ギンはあたしの身長を追い越したんだろう。全然関係ないことを思いながら、自分の口は上の空で言葉を紡ぐ。
 
「別に、そこら辺の雑木林くぐってきただけ」
「乱菊の綺麗な髪が台無しや」
 なんだか悔しそうな悔恨を感じる声音。あたしの髪なんだけど。
 頭上でせっせとゴミを取る気配を感じる。
 
「ああようやっと取れた」
 口元に満足そうな笑みが浮かぶ。思わず自分まで釣られて笑ってしまう。
「ありがとう、ギン」
 そう言えば少し身をかがめたギンが
「どういたしまして、や」
と応えて、あたしにしか判断できないであろう嬉しそうな表情で笑った。
何しろコイツはいつでもニセ笑顔が張り付いているから分かりにくい。
 
 伸ばされた長い腕、長い指。それはいつも当たり前のように側にある気配で、当たり前に受け入れた。
 長い指はあたしの顔のすぐ脇を通って、耳元の髪を耳にかけた。
「・・・・っ」
 電流のように、身体に痺れが走った。それは、もどかしいような甘いような切ないような痺れ。
 耳に触れたギンの指が熱い。違う、自分の耳が熱い。
「乱菊?」
「なんかムカツクわ」
 あたしだけこんな反応してバッカみたい!
「へ? ええと乱菊サン…?」
 男が小首を傾げる仕草は正直どうなのよ。その仕草にまた無性にイライラがこみ上げてくる。ギンに反応する自分に、それとは逆に全く何も思っていないであろうコイツの態度に…八つ当たりなのは分かってる。けど。
「後悔しても遅いからねギン!」
 いつかコイツを振り回せるくらいの女になってやろうじゃないの。
 
「らんの言葉の意味がわからへんっ…ボク、ボク捨てられるんっ!?
 いやや捨てんといてっっ」
 突然腰にすがってきたギンの反応にいつもの自分が戻ってくる。
「ちょ、放しなさいよっっ。くすぐったっっあはははははっ!」
 
 二人の笑い声は燦々とした木漏れ日の中に吸い込まれていった。

 
> ギン×乱菊 > 何気ない仕草で
2007/8/18→2008/11/1加筆
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