F分の1揺らぎ
幼少時代
 規則正しいアイツの心臓の音と、アイツに触れるだけで不規則になる自分の鼓動こどう。悔しいけどそれが一番落着くのはどうして。
 あたしと正反対で、憎らしいくらい冷静なコイツに聞いてもいいかな。
 
「ちょお乱菊っ! くっつきすぎやないのっ」
「別にいいじゃない」
「せやかて胸が! 乱菊ワザと胸押し付けてるやろォ・・・」
「大サービス。感謝しなさいギン」
「ら、乱菊がいぢめる」
「いじめてなんていないわよ? 手出したいなら出せば?」
 
 悔しい。コイツの心臓はどうなってるのよ。
 全然崩れないその鼓動に。
 悔しい。けど落ち着く。ああなんだか眠くなってきちゃうし。
 あたしの早鐘を打つ鼓動と冷静に時を刻むあいつの鼓動の音で、どんどんとあたしは眠くなる。
「眠い」
「いやいやいやいや!この状態で寝んなや!」
「おやすみギン」
 
 
 
「・・・・ホンマに乱菊はずっこいわ」
(そんな無防備に寝んといて。ボクが一番乱菊にとって危ない存在なんやから。)
「ボクが全部壊してまうよ?」
(乱菊全部べてまうよ?)
 
 悲しくなった。とても哀しい。
 
 乱菊に触れられると嬉しい。本当に嬉しい。とても落ち着く。まるではなばなれになっていたパーツが一つになったようで。だからそれが離れていってしまうと思うと、悲しい、寂しい。
 乱菊が触れてくれるたびに特大の嬉しさと、離れてしまう悲しさが襲ってくる。
 乱菊の心臓の音と、自分の心臓の音。それが交じり合ったこの瞬間で全てが止まってしまえばいいのに。
「ボクホンマに重症や」
 そんな気持ちを抱え眠れる訳が無い。けれども心地よい感触、振動、空気。
 どんなに悲しくても嬉しくても、本能には逆らえない。
 乱菊全てがギンにとって心地よいと思う全てなのだから。
 
 一番落着く。
 乱菊も同じなのか。いつか聞いてみてもいいだろうか。
 
 すうっと意思とは関係なく、滑り落ちるようにギンは眠りに落ちた。
 
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2006/9/15
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