ワルツをあなたと
「ボク乱菊の舞い好きやなァ」
 アイツは熱心にアタシを見つめてくれたから。
「そう?」
 どんな汚れた布でも良かったのよ、それをまとってアタシは見よう見まねでくるくる舞った。
 アイツが静かに、笑顔さえ潜めた穏やかな顔で見ていてくれるのが気持ちよくて、舞っている間は絶対にアイツはどこにもいかなくて。
 舞台側も1人。観客も1人。面白いくらいにアンタの心もアタシの心もまっさらで、まるで二人心の中で手を取り合って踊っているようだったわね。
 
 今アタシの手元にはたくさんの着物があるわ。
 それを着て時々舞うの。見てくれるヤツらは全員褒め称えてくれる。けれど多くの人の喝采を受けても、もうアンタを引き止められる枷にはなり得なくて。
 色とりどりの着物も宝石もたくさんの喝采も、今はもう色褪せたものにしか見えなくて。
 ただ何時ものクセのように、アンタの好きだった舞のためにアタシは着物を買う。そして1人で舞うの。

 もういない、たった一人の観客のために。

 二人、踊っていられたあの時のように。
 
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2007/9/18
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