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BLEACH
何処にいても何時でも
はじまりとおわり。
ギン乱はハッピーエンドが思い浮かばないから切ない。
けどその切なさが惹かれる原因の一つだと思います。
image song 「UNITY」 BENNIE K
「ラン。乱菊」
名を呼ぶ。宝物のように、優しく甘く、
噛
《
か
》
み
締
《
し
》
めるように。
自分の世界でたった一つ、色の付いているのは乱菊を中心とした世界だけ。そしてそれ以外、モノクロだろうが灰色だろうがギンにとってはどうでもよかった。
乱菊の傍にいれば、モノクロの世界が一瞬で鮮やかに色づく。だから、他はどうでもいい。
不思議に思う。乱菊と出会う前の自分は一体どうやって生活していただろうかと。
ただ淡々と淡々と生きるためだけに毎日を過ごしていただけだった気がする。起きて殺して食べて殺して寝て起きて・・・それだけの繰り返し。別に悲しくも寂しくも嬉しくも楽しくもなく、一人で生きてきた。
「ギン」
軽く呼ぶ。空気のように、呼吸をするように
馴染
《
なじ
》
んでいるその名を。あまりにも馴染みすぎていて、その存在がとても大切なものだという事さえ忘れてしまいそうだ。・・・それでもその存在は忘れるなんて出来ないもの。乱菊という名の人間の根本を作った最初の人。
この世界に落ちたとき、世界は全て乱菊の敵だった。ただ逃げて逃げて、悔しくて悲しくて、ちっぽけで何も出来ない自分の不甲斐なさにまた悔しさがこみ上げてきて、そして世界と自分に疲れてしまった。「もういいや」と思った。
けど、ギンに拾われて。もう少しこの世界と向き合ってもいいかな、と思った。
2人一緒だったから歩いてこれた。お互い全てを別けあって笑って泣いて
喧嘩
《
けんか
》
してじゃれついて生きてきた。
「乱菊」
「ギン」
お互い唯一無二の名を呼び合って視線を交わす。もうどれくらい時が過ぎてしまったのか。過去を思い出し、ひっそりと
微笑
《
ほほえ
》
んだ。
フワフワとした金髪に気の強そうな大きな瞳、怒り出しそうな表情は相変わらず。
サラサラとした銀髪に狐のような細い瞳、何を考えているか分からない表情は相変わらず。
けれどあの頃の少年はいない。少女はいない。
いるのは、根本は変わりはしないけれど、根本以外は全て変わった2人。
「ギン、あたしたち
何処
《
どこ
》
で間違っちゃったのかしら」
まるで降り出した雨の最初の一滴のように、ぽつんとその言葉は世界に落ちた。
「乱菊は間違うてなんてないんよ。間違うてるのは全部ボクやから乱菊はなんも気にせえへんといてな?」
「あんたはいつもいつも・・・っそんなところが大ッ嫌いって何度も言ってるじゃない!!」
「そりゃ申し訳なかったわぁ。堪忍な」
怒鳴る女と
飄々
《
ひょうひょう
》
と流す男。変わらない、けれど変わってしまった。それが嬉しい悲しい。
「ギン、あんた何処に行きたかったの・・・」
ふるふるとギンは首を左右に振った。
「最初から何処にも行きたい場所なんてなかったんよ」
乱菊の隣以外。
ぐっと乱菊が何かを
堪
《
こら
》
えるように唇を強く噛み締めた。
「ボクな、出来れば乱菊の側にずうっといたかったわぁ」
嘘吐き。
声には出さない乱菊の非難の声。目線で伝わる。ギンはやわらかく苦笑し、クシャっと己の髪をなぜつけた。
「相変わらず信用ないなぁボク」
「・・・離れていったのはアンタからなのよ? 信じられるわけないじゃない」
信じたい。
信じてほしい。
何処にいても
何時
《
いつ
》
でも、お互いの還る場所は分かっているのに。
伝えきれない。
伝わらない。
「本当に何処で間違ぉたんやろなァ・・・」
切ないギンの声は
彩
《
いろど
》
りある世界の空気に溶けて消えて。
ああ、帰ってきたんだなと。
ああ、追いついたんだなと。
お互い
斬魄刀
《
ざんぱくとう
》
を抜き放ち、笑いあって。 お互いを目指してただ前へ走り出した。
もうこれで終わるから。還れるから。
「---唸れ、灰猫」
「---射殺せ、
神鑓
《
しんそう
》
」
おかえり。
ただいま。
> ギン×乱菊 > 何処にいても何時でも
2006/8/31
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