さよなら、とあっさり言うあんたをあたしは。
幼少時代
-この手を離せばもう会えないよ。
 
 分かってた。なんとなく分かってた。
 いつか来るんじゃないかと感じてた。
 子供心になんとなく分かってたの。
 
 笑顔で送り出してやる事なんて出来なくて。
 寝た振りくらいしかできなくて。
 今までギンがあたしの側にいてくれただけで、それだけで嬉しかった。
 幸せだった。
 だから逃げ出さず、ただ現実を受け止める。緩めた手からあたし以外の温度が離れていくのも、囁いてくれたその言葉も全部受け止める。
 
-この手を離せばもう会えないよ。
 
「・・・さいなら、乱菊。ボクの側にずっといてくれはってホンマありがとぉっ」 
 優しく、本当に優しく頭を撫でて、ふとんをきちんと掛けなおしてくれる。
 それは、離れていく人間が言う言葉じゃないでしょう。
 それはあたしが言う科白だわ。
 
 今まであたしの側にいてくれてありがとう。
 もう一度掴んでしまいそうになる自分の腕を必死に留めて、離れていく温度に。
 
 また会いましょう。
 
 また会いましょう。
 
 嗚咽をこらえながらそう心の中で唱え続けた。
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2006/11/24
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