薄汚れて、千切れても君だけのものでいたかった
「ギン! あんたはまた・・・っ!」
 ひゅうっと乱菊は苦しそうに息を飲む。そうして、泥だらけ傷だらけ血だらけのギンの身体にそっと指先を伸ばした。
「大丈夫やよらん。ボク全然痛たないよ?」
 乱菊の指先を目で追いながら、いつも通りの笑顔で笑えばパン!と頬に熱い痛みが走る。乱菊にひっぱたかれた事に、ギンは特に驚くことはなく、へらっと微笑んだ。うつむいてしまった乱菊の太陽のような鮮やかな髪がギンの腕にさらと触れた。
「・・・あたしが原因でギンが傷つくの嫌なのよ」
「せやかて、乱菊。あいつら嫌がる乱菊殴ったやないの」
 ボクの大切な乱菊に。
 
 ギンは無差別に人を殺したりする人間ではなかったけれど、乱菊に害をなす者と結論を下すと、どこまでも冷徹な殺人鬼になった。そうして、乱菊の決して目に触れぬ場所で全てを終わりにしてきてしまう。その度に乱菊は激怒して、ギンのいない場所で一人泣いた。
 そんな乱菊を知ってはいたけれど、決して自分の行動は変えはしないだろう。
 乱菊の気持ちなんて二の次で・・・ボクが嫌なんやもん。
 そうボク自信が嫌なんの。乱菊がボクん中で大切すぎて、この気持ちと行動は、例え乱菊にだって止められはしない。
 負い目でもなんでもいいから、乱菊と自分を繋ぐ何かが永遠にあればいい。それはどんどんどんどん、自分たちの見た目に差が出てくる度に黒く大きくなっていく。
 
 こんな汚い自分を乱菊に見せたくなかった。
 だから、乱菊から距離を置いた。そうして、そんな時にギンは出会ってしまった。自分の黒い部分と同じ、いやそれ以上の死神に。
 この死神はきっと、いつか乱菊に害をなすかもしれない。自分の力では敵わない。本能的に悟った確信。
 ならば、この人物の傍にずっといようと決めた。乱菊に決して近づかさせないように。乱菊を危険から離すために。
 
 片手で顔を覆い、カラカラとギンは笑った。
「何を思いだし笑いしているんだい、ギン?」
「ああすんまへん。昔んコト思い出してもうて」
 顔から片手を外し、もう片手に握る神槍を無造作に薙ぐ。びしゃっと地面に深紅の液体が飛び散った。
 
「ほう、なんだい?」
「どーでもええことですわ。ガキん時もやっぱりこないに殺したなァおもただけです」
 にぃと笑みを深くする。辺りは机に伏した血まみれの人だったモノばかりであった。
 
 
 ずうっと傍にいたかった。薄汚れて、千切れても君だけのボクでいたかった。
 けれどもう、引き返せない。戻れない。戻る気も無い。
 ただ、乱菊が、君が、幸せであれと、それだけを。
 
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2006/9/25
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